蒼星 創

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「おめでとうございます。あなたは死んでいました」

 目を覚まして早々そんなことを言われて状況を理解できる人間が居たらエスパーに違いない。

 ここは病室らしき部屋で、周りには医者か研究者か分からないがたくさんいて、よくわからない機材に繋がれていて、先程の世迷言を言ったのが看護師らしき人物というのは、あたりを見渡してわかった。いろいろと不明瞭なのは窓がなく、やたらと厳重な気がするから。

「おや、記憶がありませんか?」
 私は自殺したはずだ。失敗したのか?
「いえ、成功してますよ。あなたが死んだ直後に脳みそを切り取って培養し、別の死体に移し替えました」
 この国の倫理観はいつの間にか死んでいたらしい。
「まぁ、何が何でも死にたくないという人はいるんですよ。そのための実験が必要だというわけです」
 酷い話だ。
「1ヶ月もすれば退院できますよ。日常生活の記録もほしいので。監視はさせてもらいますが」
 そういって鏡で私の顔を写してみせた。
「あなたが死んだ理由に興味はありませんが簡単に調べた限り経済的苦境でしょう。せっかく別人になったんです。金銭の補助はするので、生きていてほしいですね」
 知らない顔が写っていた。


 あれから半年がたった。この体の持ち主のことを知ってる人がいない土地で暮らしている。不便はない。お金は出るし、月に一回検査に参加すればいいだけだ。

 せっかく異常な状況だというのに何もないのだ。
「やっぱり自らアクションを起こさないと人生って退屈なのか」

 私が死んだのはただ、退屈だったから。経済的苦境なのも何もする気が起きなかったから。
「病気なのかな……どうでもいいか」

 ホームセンターでいろいろと道具を買ってきたがさて、

「今度こそ確実に終わらせないと」
 
 終わりを考えてる時間だけはワクワクしたのだ。

 [終わりにしよう]

7/16/2023, 1:07:57 AM