フクロウに似た人は言う。
やりたくて雑貨屋を
やってるんじゃないと。
狐に似た人は言う。
おりたくて白雲峠に
おるんやないと。
少女はわからない。
やりたくないなら
やらなきゃいい。
居たくないなら
どこか違う場所へ行けばいい。
何故好きなことをしないのか、
茶髪のネブラスオオカミの
少女には
わからなかった。
白髪の少女、
ネブラスオオカミの長は言う。
1割に入るネブラスオオカミなのだから
いずれ君にもわかると。
それすら何のことかわからない私に、
本当にわかる日が来るのだろうか。
群れの中でも特に理解力が足りず、
よく1匹でいる私に。
月を見上げる度思い出す。
フクロウに似た人の、
狐に似た人の、
長の寂しそうな顔。
何かを思い出すような顔。
何かを諦めたような顔。
1番苦しいのは
私がその顔を見ても
何も出来ないこと。
でもお喋りなカモメは言う。
それでいい。
後ろを振り向かず、
ただ歩いていればと。
"Good Midnight!"
まだ遠くて遠くて
見えやしないけれど、
私もいつの日か
好きなことが出来なくなる。
何かを諦めなければいけなくなる。
嫌でもわかってしまう
その時まで。
1つだけ
世界があって
1人だけ
私がいるのだとしたら、
それってすごく尊くて
儚い命なんじゃないかって思う。
何もかもが1度きりで、
初めてで、感動モノで。
何かがふっと切れたみたいに
見方が変わる。
あ、私別に今これしなくていいやって。
身体が軽くなる。
全てに色がついていく。
電車の音、雨の匂い、
行きつけのケーキ屋さんの
いつもの温度。
肌寒いくらいがちょうどいい風。
五感に感じる全てが
心地いい。
"Good Midnight!"
もし
世界が2つ以上あって
私が2人以上いるのだとしたら、
あっちの世界でも
私がいるから
こっちの私は
このまま普通に。
大切なものは
見つけた瞬間に隠しちゃう。
取られたくないし、
自分だけが見ていたいから。
でも不思議ね。
大切なものが生き物の場合、
意思があるから
動いてどこかへ行っちゃうの。
それが怖くて怖くて
閉じ込めたい衝動が抑えられない。
だから私は動かないものが大切。
透明で綺麗なビー玉。
ラメ入りの缶バッジ。
少し大きい本。
チリチリと揺れる風鈴。
大切なものに包まれて、
私まで大切にされてるみたい。
これを幸せと言うんだろうなぁ、なんて。
"Good Midnight!"
捨てたとしても
過去は張り付いてくるけど、
大切にしてるものに
大切にされて、
自分で自分を大切にしてるみたいで、
思わず笑みが零れるくらい
あたたかいのは、
過去を振り返らず
今を見れてる証拠だ。
暖かい温泉。
スベスベになると噂の
観光地の温泉。
温泉街が賑やかで
でも自分は1人で、
少し寂しい。
偶然、
温泉街で友人とすれ違った。
友人は別の友達グループできていて、
とても楽しそう。
声をかけても
特に話すことなんかないし、
自分も相手も困る。
そう思って通り過ぎた。
すると声をかけられた。
友人だ。
おー、1人?
うん、そっちは大人数だね。
まあね。
見たらわかることを話していると、
そこでグループの何人かが
友人にちょっかいをかけた。
会話はそれでおしまい。
でも何も言わず立ち去るのも…。
やっぱり難しい。
人がいなけりゃ寂しいのに、
人がいすぎたら面倒くさい。
川は雨で
流れが早い。
ごめん、話の途中だったよね?
どのくらいだろうか。
10分か、20分か、
それとも5分か。
友人が話を戻そうと話しかけてきた。
顔色悪いけど大丈夫?
そう言われてやっと、
目眩がする事に気づいた。
最近疲れた顔よくしてるからさ。
温泉でゆっくり休んで
一緒に頑張ろ!
みんなしんどい中頑張ってるんだし。
あぁ、
眩しいなぁ。
既にクラクラするのに
太陽を見つめた時みたいな
ふらっとする感覚が来る。
全然大丈夫。
温泉入ったらリフレッシュになるかな。
私頑張れてなかったし、
これからもっと頑張るよ。
頑張って生きるよ。
私がこう言っても
友人が不思議そうなのは、
私が真顔だったから。
"Good Midnight!"
だから私は
エイプリルフールだよ。
そう言って笑顔で川へ飛んでった。
やっぱ私生きるの向いてないわ。
私の特別な人には
多分好きな人がいて、
それは私じゃない誰かで、
私には見せない顔をして
私には話さない話をして
私とは行かない場所に行って
私の知らない所で楽しそうにしている。
寂しいとか悲しいとか
そういう域は超えていて、
もう目の前から消えて欲しいと
私が幸せにできないなら、
誰かが幸せにするなら。
黒くて、ぐるぐるしてて、
どろっとしてて、痛い思い。
気持ち悪くて
私すら私に消えて欲しいと
そう思う。
ただそこには、
小さな小さな
願いと思いと。
"Good Midnight!"
何も知らない特別な人。
私の知らない好きな人と
私の知らない所で
どうか幸せに。