美しい景色に、
匂いに、
私は今感動している。
心を動かされている。
自然のど真ん中。
草原の中心では
草だけが風でなびき
草だけが私を包んでいた。
風の音と
遠くの方で微かに聞こえる小鳥の声。
静寂とまではいかない
この空間が
とても居心地のいい場所だった。
本音で構成された私を
私だけが見てあげて、
私だけが認めてあげれる。
互いに苦しめ合ってきた日常から
2人で少しだけはみ出して。
優しく抱きしめてあげて
撫でてあげて
涙を拭いてあげる。
私が誰でもいいから
誰かにしてもらいたかったこと、
全部私にやってあげる。
沢山褒めてあげる。
ずっと一緒にいてあげる。
不思議だ。
実際にもう1人の自分がいて、
その自分を労わっているわけでは
ないというのに
私は暖かくて満たされている。
草の匂い。
目を開ければ
光が私を眩しくさせる。
今の私には
太陽は少し暖かすぎるし、
眩しすぎるな。
"Good Midnight!"
ちょっと眠ってしまえば
こんなに眩しい真昼間は
真夜中に変わってしまうのだろうか。
確率とは、
状況とは、
世界とは、
全てからくりで操れる。
少し紐を引っ張れば
あるゲームでは逆転勝ち、
またある所では
騙され疑心暗鬼になる。
悪用しては
世界が壊れかねないからくりだが、
全てのからくりは私の手の中にある。
私が指を曲げるだけで、
伸ばすだけで、
世界も確率も
どんな勝ち勝負でも、
ひっくり返したり
傾けたりして
ぐらぐらに操れてしまう。
私は、
私の手の中に世界があることが
堪らなく嬉しかった。
ある時ふと
どのくらい操れば
天地がひっくり返るような事が
起きるのだろうと
気になってしまった。
好奇心は盛んなので
すぐに実験をした。
手を広げたり閉じたり、
手首を回したり振り上げたりして、
世界をどうにかしようとした。
なんと驚いた。
ある所では突如現れた怪獣が
人を食い散らかし、
またある所では
宇宙に吸引されるという
謎の現象が起こっていて、
異常な事態となっていた。
私は怖くなって震えた。
手の震えも止まらない。
そのせいで今も世界は変わっていく。
"Good Midnight!"
あぁ!
この世界はなんて
脆くて繊細で
壊れやすいんだ!
とても面白かった。
楽しかった。
幸せだった。
もっと大事に扱わないと
いけないなぁ。
愛らしい手の中のからくりを
見つめながら、
簡単に操られてしまう
この世界を
愛せずにはいられなかった。
またおうたね。
少し大きめのペットショップ。
犬猫はもちろん、
魚も売っていたので
いつかの思い出の中の
金魚を見つめていると、
あの時ぶつかってきた
狐に似た人がいた。
なんや、久しゅうなぁ。
あん時はほんますんません。
いえいえ、大丈夫ですよ。
律儀な人だなぁ。
随分前のことだし、
別に気にするようなことでも
無かった。
むしろ狐に似た人が
金魚すくいの金魚より
綺麗で見とれた思い出が強い。
それより…。
それよりあなたはどうしてここに?
しまった。
うっかり心の声が漏れた。
狐に似た人は少しキョトンとしてから、
あぁ、ここ近所やからねぇ、
ここよく来るんよ。
休日は人多くてかなわんけどねぇ。
ゆっくりとした
優しい話し声。
私もここよく来ます。
これも何かの縁だと思うのですが、
よければ今度お茶しませんか?
全く私は何を言っているんだ。
いくら綺麗な人だからって、
まぁでも、
1、2年くらい前に
たまたま出会っただけだから、
本当に縁かもしれないけれど。
ぱぁっと狐に似た人の顔が
笑顔になり、
ええの?
めっちゃ行きたいわぁ!
ペットショップの
魚が売ってあるコーナーで
名前も歳も知らない私たちは
連絡先を交換した。
"Good Midnight!"
思えばこの人に出会ったあの日から
1、2年ほど、
ふとこの人の事を思い出しては
金魚を見に来ていた。
何故かこの人は
狐に似ていて、
不思議な雰囲気を纏っていて、
とても綺麗だから。
自分の思い描く世界に
夢を見てたい。
たとえ存在しなくとも。
そう覚悟して
ずっと自分の世界だけに
焦がれて、憧れて、
生き続けてきたのに、
こんな所にあったなんて!
出店中なのだろうか。
屋台のように雑貨が並べられている。
店員は一人で
フクロウに似ている。
ちょっぴり不思議な雰囲気。
色鮮やかな雑貨。
丸い天井の装飾。
まさに私が求めていた世界。
コンパクトにまとめられていて
好きなものを一度に見れる
祭壇のような幸福感を味わった。
フクロウに似た店員は
何かお悩みですかなどと
話しかけてはこなかった。
休憩時間が待ち遠しいように
たまに時計を見つめていた。
私はブローチを買い、
フクロウに似た店員に会釈をした。
店員は一言、
"Good Midnight!"
とだけ言ったような気もしたが、
すぐに街の音で
現実へと引き戻された。
また現実逃避の日々か〜、と
やる気も根気も全て失う。
でもあと少しだけ
頑張れる気がした。
そんな私の胸元には
早くもブローチがついていた。
長文は
あまり読みたくならないらしい。
真夜中の貴重な時間を
面白いと思ったことに使いたいから
面白いかが
すぐに分からないものは
飛ばしてしまうらしい。
これは全部
私という人間の1データ。
夜更かしのお供に
いつも違うものを選んでた。
本、音楽、絵を描くこと。
でも最近はラジオを聞き出した。
車によく乗る18時頃、
いつもたまたま聞いていたから
18時〜のラジオ番組が
ラジオという音は聞こえているけれど
なんだか他の事も考えられて、
音が無いより静かで
落ち着いているように思える。
心地よいのだ。
作業中にはうってつけで
とても捗る。
"Good Midnight!"
何も考えたくない時。
良くない事を考えちゃう時。
考えを放棄し、
ラジオに眠り続けて
ずっとこのまま。