全ては優雅で美しい復讐のため。
風が強くて
髪の毛が鬱陶しい日だった。
なんとなく手に取った新聞。
ある小説家が行方不明になった記事、
その小説家は私のお気に入りの本を
書いた人だった。
私は好きなものには
全力を尽くすタイプだ。
まだあの小説家が書く本を
読んでいたい。
そう思ったらすぐ行動した。
何人もの探偵に弟子入りしては
警察が調べた情報を掴み、
ある程度の位置を割り出した。
事前に習っておいた合気道は
ここで役に立った。
小説家は衰弱していて
今すぐ病院に行き、
点滴を打った方がいい感じだった。
なぜ小説家を攫ったのか、
なぜ小説を書かせるために
攫ったのではないのか。
気になることは山積みだったけど
とりあえず警察に任せた。
しばらくしたら
また本が読めると思っていた。
でも小説家は病院から逃げ出した。
私を黒幕だと書いたメモを残して。
意味がわからなかった。
これが自分を助けた命の恩人にすることなのか。
恩を仇で返すのか。
怒りや憎しみは一瞬にして爆発、
あんたの為に付けた力を
あんたへの復讐で
使ってやろうじゃないかと思った。
復讐は優雅で美しくあるべきだ。
軽やかに宙を舞う蝶々のように動き
シャチホコのような強い力、
猫のような俊敏さで
私は小説家をボコボコに…。
コホン。
沢山痛めつけた。
まだまだ疑問は湧くばかりで
解消されないけれど
私はこう自由に生きたいと思った。
"Good Midnight!"
次は私に濡れ衣を着せろと小説家に命じた、
真の黒幕退治。
私は優雅で美しい復讐をしてあげようと思った。
コーヒーが冷めないうちに。
パラレルワールド。
それは現実とは少し違う。
別の選択をした人や
そもそも出会うことのなかった人など
人や物との関わり方が
この今いる現実とかけ離れた世界のこと。
なぜパラレルワールドが
あると言われているのか、
行って帰ってきた人がいるからなのか、
それともただの誰かの現実逃避の言い訳か。
誰にもわからないから
誰もが信じる。
私が知っているのは
本来あるはずのない日付、
例えば8月32日などが
稀に現れ
その日を過ごすと
その過ごしている世界はもう
パラレルワールドということ。
いつ何処に出現するか、
条件はあるのかなど
わからないことは山のようにあるが、
確かにパラレルワールドは
あるのかもしれないと
そう思わせる情報だ。
"Good Midnight!"
パラレルワールドに行ったら
何をしたいと思うんだろう。
自己嫌悪で頭がおかしくなりそうな
こんな夜でも
パラレルワールドでは好きになれるかな。
時計の針が重なって
私の黒い心が
本音が見えてきてしまう。
毎晩12時になると
魔法が解けたように
猫かぶりな私は
本当の私になる。
自分で調べて書いたらいいのに。
私のことを踏みつけにしなくても
いいじゃない。
クソッタレ。
私がどれだけ手助けしたと思ってんの?
恩を仇で返すの?
自分がいちばん不幸みたいな顔してさぁ、
こっち見てこないでよね。
ごぽっと
黒くて丸い液体と口から出てくる
飲み込んだはずの言葉。
細胞の一つ一つが
私を否定してくる。
このままじゃ、
次は私が飲み込まれる。
うぇっ。
黒い液体は
日に日に量が多くなっている気がする。
頭がぐるぐるして目眩がする。
寝たらいつもの私に戻る。
そう思って私は怯えつつ寝た。
朝起きて鏡を見ると
私は黒い液体で包まれていた。
えっ?
黒い液体はボタボタと落ちていて
まるで頭の上から
ペンキを被っているみたい。
でも段々と私に戻っていく。
いや、違う。
これは私じゃない。
これは…誰?
不自然なほどニコニコしている顔。
目は大きく開いて
不気味に感じる。
あ、これは言葉を飲み込んで
猫を被っている私だ。
私は私じゃなくなったんだ。
黒い何かに飲み込まれちゃった。
"Good Midnight!"
ふふふ。
飲み込んだ負の言葉は
少しずつ種に水をやって
自分じゃない誰かが生まれて
乗っ取られちゃう。
それを知ってたら
人は飲み込むのをやめるのかな?
いいや違う。
人はやめない。
自分が何なのか
最初から知らないから。
無関心な
空っぽな心。
何も分からなくて、
分かりたくもなくて
誰かに頼りっぱなしになりたくて
僕は寝た。
寝て、寝て、
起きたら数千年経ってた。
それはからは長いようで早かった。
何年かは世界を見て回った。
何十年かは風が強くて涼しい
気に入った土地に住み着いた。
何百年かは怠惰に生きていた。
でももう、いいと思った。
また前と同じ場所で
また長い眠りについた。
僕は世界に飽きてしまったんだ。
結局僕の心を動かしてくれる
王子様もお姫様も現れなかった。
誰か僕をキスで起こしてよ。
長い長いこの人生を
捧げられるくらい素敵な君に
早く出会って
早く人生を共にして
早く消えよう。
何千年と生きてきたのに、
特に何も得られなかった
怠惰でめんどくさがりな僕を
救って欲しかった。
白雪姫もオーロラ姫も
羨ましいなぁ。
寝てるだけで運命とやらに
巡り会えるんだ。
"Good Midnight!"
今度起きるのは
何億年も先になるかもしれない。
でもいつか誰かのお陰で目覚めるなら
その時はちゃんと笑顔で言おう。
幸せと世界の全てを僕と一緒に。
今日はcloudy。
そして風が強くて
髪の毛がよくなびく日だった。
私は起きた時にあるメリットが
5個以上ないと起きれない。
だから大体は寝て怠けている。
今日は5個以上あったので、
水を飲み仕方なく起きる。
窓を開けると
たくさんの風が入ってきた。
それもすごく強い風。
風に当たると
また眠くなってくる。
少しソファーで
うとうとしていると
いつの間にか寝ていた。
夢を見ていた。
とても不思議な夢。
大きなクジラが
私の目の前を通って
優しい眼差しを向けてきた。
尾ひれにしがみつき、
クジラと海を旅した。
底なしの海のようで綺麗な青。
たまに聞こえるクジラの鳴き声が
心を落ち着かせた。
私はいつから
クジラ好きになったんだろう。
前まではクジラの鳴き声を聞いても
聞き流していたし、
尾ひれにしがみつこうとも
しなかったはず。
思い出そうとすればするほど
わからなくなってくる。
クジラはまた鳴き、
何も考えなくていい、
私の尾ひれに
しがみついておくだけでいい、と
言っているようで
私はすっかり安心してしまった。
ぼんやりと天井を見つめる。
夢だったと気づいた時には
私はあのクジラに
すっかり魅了されていた。
"Good Midnight!"
水面が美しい。
海だけが友達なクジラと
私はきっと
仲良く海と泳ぎを
楽しみたかった。