ある日
鏡はこの世界を反転させて
写しているだけだとされていた、
誰もが思っていた当たり前のことが
覆る出来事が起こった。
勢いよく鏡に手を突き出すと
鏡の中に手が入り、
鏡の中の自分が驚くというものだ。
つまり
世界は2つあって
互いを鏡写しだと思っていた。
この出来事により
2つの世界中で解明を急いだり、
コミュニケーションを取ろうとしたりし、
世界と世界を繋ごうと
皆が協力していた。
戦おうだの、
実験してみようだの、
マイナスな考え方は
誰一人しなかった。
インターネットでは
#虹の架け橋🌈で
世界を繋ごうプロジェクトが
拡散された。
どちらの世界にも
優秀な科学者や研究者たちがいて
世界は繋がった。
その繋がる糸を
人々は虹の架け橋と呼んだ。
私たちにも協力が、
争いをせず
平和に終わらせようという考え方が、
こんなにも多くあったことを
2つの世界が実感出来たから。
国民も天皇も
できる限りの事をし、
全てを尽くしてもう1つの世界と
交流できるようになったことを称え、
虹霓、こうげいの日と呼ばれる
新たな祝日が設けられた。
"Good Midnight!"
何年も経つと
なんの祝日かなんて
誰も覚えてはおらず、
自分は元々どっちの世界にいたのかすら
忘れていって
世界は1つになっていった。
既読がつかないメッセージ。
未読が消えないメッセージ。
喉につっかえて出てこない
私の本音。
いつまで嘘をつけばいい?
いつまで私は…。
こんな毎日が続くと思っただけで
吐き気がする。
なんで私はこんな事になったんだ。
私は何が好きで、
何をしたかったんだ。
なんで友達を裏切ろうとした?
なんで裏切るつもりなんかなかったって
嘘をついた?
フレネミー。
そんな言葉が真っ先に思い浮かんだ。
友達のフリをした敵。
私はフレネミーなの?
私はもう誰かの敵にしかなれないの?
涙は止まることを知らず、
私の心に雨を降らせた。
"Good Midnight!"
また私じゃない私の
つまらない人生が始まる。
秋雨前線とやらのお陰で
最近は涼しい風が吹くようになった。
まだ日差しは刺すように痛いけど
日陰に入ってしまえば
こちらのものだ。
もみじもイチョウも
一向に色を付けない。
去年と同じ、
気温が中々下がらないからだ。
夕方、
家に帰りたくなくて
夜まで遠回りして帰った。
風があるから長く歩ける。
でも家にはいつか帰ってしまう。
息苦しかった。
話を聞かないというのは
こうも人に不快感を与えるらしい。
家族の誰一人として
私の話を聞いてくれる人がいるどころか
呼んでも無視されるばかり。
空気のように扱われる家に
帰りたい人なんて
本当にいるんだろうか。
"Good Midnight!"
今日も空だけが友達。
涼しい風で
秋色は少しずつ
世界を色付けていく。
もしも世界が終わるなら
私は今日をやり直したい。
納得いかないことだらけで
あれもこれもしたかった。
食べたいものは
食べれなかったし、
正直な気持ちも
打ち明けれなかった。
全部終わるなら
どうでも良くなるなら、
溜めてた思いを
全部吐き出して
重すぎる肩の荷を
降ろしたい。
息が詰まるような毎日。
特に夢も趣味もなく
ただ生きるためだけに
すべき手順を踏んでるだけ。
起きて、食べて、
歩いて、食べて、寝る。
ロボットみたいにずっと同じで、
刺激が欲しいからって
危ないことに手を出すことすら
臆病で出来なくて。
いっそ
何かの病気って言われて
全てをその病気のせいにして
楽になりたかった。
嫌なことだらけで逃げられない。
逃げたら怒られるし、
連れ戻されるし、
罰が与えられる。
怖くて目を瞑っても
やっぱり怖い。
"Good Midnight!"
もしも世界が終わるなら
次は生きやすい世界に生まれたい。
うっかり紐を踏んでしまったので
靴紐を結び直す。
こんな僅か数秒の間に
過去のちょっぴり悲しいことを
いくつも思い出してしまう。
一生懸命に描いた絵が
白紙の方がマシと言われた時。
その紙すら邪魔なので
返すから捨てろと言われた時。
靴紐を結び終えただけなのに
ポロポロと涙が零れる。
私の頭の中は
もう悲しかったことでいっぱいだ。
このまま消えてしまいたくなる。
少し自分が否定されただけで
こんなに生きにくい世界なら。
私が泣いていても
もちろん誰も足をとめない。
結び目は緩く、
すぐ解けてしまうので
また結ぶ。
苦しくて悲しくて
今すぐ家に帰って大泣きしたい。
再び結び終わると、
私は走り出していた。
今出せる全速力で。
何度も転けそうになった。
何度も人とぶつかりそうになった。
でも私は止まらなかった。
"Good Midnight!"
押し殺した泣き声は
いつの間にか唸り声に変わり、
気づいた時には夜だった。