緑のフィルターで
世界の自然を。
青のフィルターで
世界の海を。
フィルターで見える
世界の全て。
生身の目や足では見ることも、
行くことも出来ない、
そんなたくさんの色の景色。
桃は花畑、赤は夕日、
黄は砂漠、水は川。
宝物が詰まったフィルター。
私にはきっと
まだ見ていない景色があって
それはフィルターで見ることの出来ない
私だけの景色。
眠っている時に
ふと見れる景色。
毎回違うのに
毎回心惹かれる。
ある時はプールで泳ぎ、
ある時はそらをとぶ。
そこでは私は私を好きになれた。
あ〜、ずっとここにいたいなぁって
何度も思った。
フィルターを通して見ないと
こんなクソみたいな世界は
綺麗に見えない。
それどころか
目から溢れる水で
前すらぼやけてしまう。
"Good Midnight!"
誰にも言えない。
甘えだって言われるかもしれない。
私より辛い人がいるかもしれない。
でも今この瞬間は
この部屋には私しかいなくて、
私しか関係なくて、
私だけが頭を抱えていて。
あの子みたいに背が高い方が好き?
あの子みたいに話が面白い方が好き?
あの子みたいに私のダメなところが
ひとつも無い方が好き?
私はきっと
みんなが好むようなものを
何一つ持ってないから、
みんなと何か違うから。
好いてくれる人がいないことを
何かのせいにして
自分を無理やり納得させて、
誰とも仲間になれなくて。
グループが嫌いで。
たった一人でもいいから
私を優しく仲間にしてくれる
神様みたいな人に出会いたい。
そんなことを考えながら
満月を見ていた。
もしこの世に神様がいるなら
私をたくさん撫でてくれるかな。
たくさん優しくしてくれて
世界の母みたいに
優しい眼差しを向けてくれるかな。
"Good Midnight!"
もう誰でもいいとか思いながら
本当は誰でも良くない神様。
対等な存在とまではいかなくても
神様みたいな人は
私に手を差し伸べてくれるし
私はその手を取って
世界の果てまでついて行きたい。
雨と君。
君は雨が嫌いで
私は雨が好き。
君はよく私の傘に入ってきて
にゃあーっと
お礼を言う。
私は雨と君が好き。
雨は君を連れてきてくれるし、
君は私を連れていってくれる。
霧が出る紫陽花の庭、
夏でも雪の降る街、
独特な雰囲気の雑貨屋さん。
どこで知ったのか分からない所へ
君は慣れた足取りで
私を案内する。
今日は峠に来た。
君は峠の分かれ道を
右に行ったところにある鳥居に
足をぶらぶらさせながら座っている
白髪の綺麗な少女の元へ行き、
連れてきたと言わんばかりに
誇らしげに鳴いた。
ここは白雲峠ですよぉ。
お嬢さん、何で神社に?
猫に着いてきただけだと言うと、
あらぁ。
じゃあ多分ネブラスさんに
会わないとですねぇ。
白髪の綺麗な少女は
ひょいっと鳥居から飛び降りると
ネブラスさんという人の所へ案内してくれた。
少女は2本のしっぽがある
猫又だった。
弟子を1人とっているのだと言う。
君の仕事が白雲峠への案内人という事も
教えてもらった。
しばらく歩くと
白髪の少女がいた。
猫又の少女の白髪とは
また少し違う白色をしていた。
白髪の少女は私を見るなり、
単刀直入に言う。
キミに白雲峠に住んで欲しい。
この子がキミを気に入っちゃってね、
キミに会いに行く時間が惜しいほど
忙しくなってきたって言うのに
この子、一向に会いに行くのを辞めなくてさ。
と言ってきた。
どうやら私のせいで
君や他の人たちがさらに忙しいみたい。
"Good Midnight!"
私は峠に住むことを了承し
君の喜んだ顔と、
白髪の少女の安心した顔と、
猫又の少女の
何かを疑うような顔を見た。
誰もいない教室。
どこか懐かしくて
涙は溢れて止まらない。
あの日、
私が君の手を取って
止められなかった日。
君はよく死にたがりの顔をしていた。
だから私は
いつも君を連れ出して
この丸い地球で
面白いものをたくさん見せてあげた。
私が君の世界を広げてあげたくて、
君が見えてない世界は
もっと面白いものがあるんだよって
たくさん教えてあげた。
その度に君は楽しそうに笑ってた。
でも数日経ったら
すぐ顔は元の死にたがりに戻って
何かブツブツ言ってるんだ。
きっと私の見えない所で
君は十分何かに傷つけられてた。
なのに私は気づかなかったんだ。
気づけなかったんだ。
やっと気づいた時には
もう遅すぎた。
私が何を言っても
どこに連れて行っても
君はもう笑ってはくれなかった。
誰もいない教室。
君はこう言った。
ありがとう、もういいよ。
最後に1つお願い。
私と一緒に空を飛んで欲しい。
私でもわかる直球な言葉だった。
正直私は
この地球に面白いものなんて
最初からないと思ってた。
つまらなくて、退屈で、
コンクリートばかりの星。
だから君となら飛べると思った。
そう、思ってしまったから。
私は君を引き戻した方がよかった。
まだまだ面白いものはあるよ。
もう無いと思うなら
私が君を笑顔にさせるよ。
だからさ、こっちにおいでよ。
私と生きようよ、って。
なのにフェンスを乗り越えて
深呼吸して飛んだんだ。
大空に。
"Good Midnight!"
君の手は最期まで震えてた。
私はどこも痛くなかった。
私はそこで初めて
自分が不死身だと知った。
あの時手を取って止めていれば
君を辛いことから
全力で守ってあげていれば
君は笑って楽しく過ごせていたのかな。
信号待ち。
日陰なんかどこにもない
ただ暑い日差しが痛い日だった。
この信号は長いから
なるべく待ちたくなかったのに
どうしても引っかかってしまって、
空を見ていた。
すると
なんだか猫のような少女が
信号待ちに来た。
まるでどこかで会ったことがあるかのように
猫みたいな少女は話し出す。
白雲峠においでよ。
狐に似た人も
フクロウに似た人も
私の師匠も待っているよ。
私は師匠と違って
猫又なのにしっぽが1本しかなかったの。
でも師匠は修行を積めとは言わなかった。
師匠はいつもこう言うんだ。
努力は必ず報われる、なんてことは
絶対に無いんだよ。
努力をしても越えられない壁にぶつかって
それでも努力を続けるから、
無駄な時間ばかりを過ごすんだよ。
私はそんな人を山ほど見てきたから
わかるんだ。
だから努力なんかしなくていい。
君は1本のしっぽでも十分強い、って。
こんな半人前の私でも
ここに居ていいんだって
そう思えた。
だから貴方も白雲峠に
またおいでよ。
誰かと間違われてるのかと思ったけど、
中々話の内容がわからなかったので
少女に目を向けてみる。
少女は猫目で黒髪の綺麗な人だった。
私の視線に気づいたのか
少女は続けて話す。
まあ、
その気になったらいつでも教えて。
あそこの神社に師匠と居るし。
そう言って少女は信号を渡ろうとした。
しかし、ハッと何か思い出したように
振り返り、
忘れるところだった。
貴方のこの先に、
神のご加護があらんことを。
と言って去っていった。
"Good Midnight!"
なんだか心強い一言をもらってしまった。
少し申し訳ない気持ちで
私も信号を渡る。
けど、
一体誰と間違われていたのやら。