いいね。
台風を生成できるようになったのか。
人は生まれつき
一つだけ超能力のような、
魔法のような、
異能力を所持していて
念じると
手から、杖から出すことが出来る。
私は風を操るものだった。
物を力要らずして運べるので
中々便利で愛用していた。
けどそのせいで、
ダラダラと過ごしていたので
宝の持ち腐れだと両親に
師匠を紹介された。
師匠は平凡な人で
とても強い能力、魔法持ちや
優れた使い方ができる人だと思わなかった。
師匠より優秀な人は数え切れないほど
この世にいると思っていた。
旅を共にする前までは。
本来は
手からか、杖からか、
どちらかからしか
能力、魔法を出せない。
しかし師匠は手からも
杖からも出していた。
それだけではない。
一つだけしか持っていないはずの
能力、魔法をいくつも持っているのだ。
それはもう片手で数え切れない、
足の指を足しても何倍も足りないほど。
そしてその能力、魔法一つ一つの使い方は
とても熟練されていて
無駄がなかった。
私は師匠のようになりたいと思った。
風の使い方は無限大、
師匠も風を操れたので
何度も訓練をして
何度も鍛錬をして
師匠を目指した。
雨を降らせることは出来なくとも
台風を作れば
雨も付いてくる。
そうやって私なりに工夫していた。
"Good Midnight!"
師匠の足元に及ぶことはなかったけど
師匠は自慢の弟子だと言い、
私の柔らかい台風を眺め
風を感じて
ただゆっくりと
瞬きをしていた。
夢じゃない、
夢じゃない夢じゃない夢じゃない、
これは夢じゃない!
真っ赤に染る手、
転げ落ちているナイフ、
誰かも分からないズタズタの人。
血の海の真ん中、
何故か私はそこにいて
誰かをズタズタにしていて
その時のことを全く覚えていなかった。
ひとつ確かなのは、
夢であって欲しいこれが
夢じゃないってこと。
どうしよう、
警察とか来るのかな。
救急車呼んだ方がいい…?
なんかこれ、
もう既に助かってない感じするけど。
誰か通報してるかな。
えっ、自首した方がいいかな?
うーん、
とりあえず手洗お。
頭は沢山のことでグルグルしてるのに
どこか妙に冷静で
洗面台で手を洗った。
服も返り血を浴びていたので
洗濯機を借り、
シャワーを浴びる。
身体を洗っている時、
あ、どうしよう。と
急に焦ってきた。
でも殺った記憶が無いし
もしかしたら別の人が…。
なんてことは絶対に有り得なくて
私はほぼ詰みだった。
スマホで110当番、
私は潔く自首した。
けど、待っても待っても
警察は来なかったし
救急車も見当たらなかった。
辺りはやけに静かで
ものすごい恐怖をここで感じた。
そして今更、夢説が再浮上した。
"Good Midnight!"
起きたら泣いていた。
そんなことはごく稀だろう。
今までのどんな夢より
夢でよかったと思った。
世界は美しい。
でもそれは一部だけで
クソみたいなところも
沢山ある。
そんな世界にいたら
私や他の人だってクソみたいになる。
だから生まれた意味とか
考えちゃうこともある。
涙を流しちゃう時もある。
この辛くて変わらない日々に、
終わりがあるのか分からなくて
不安で苦しくて辛くて…。
だから私は
世界に僅かに残ってる
美しいものを探そうと思った。
私は決めると準備が早い。
翌日には家を出れた。
小川は光り輝いていて
綺麗だった。
波のように風に揺られる田んぼの稲は
緑色で綺麗だった。
整ったレンガの上を歩いた時の音は
綺麗だった。
そう、
綺麗なものも美しいものも
何処にでもあった。
クソと綺麗は混ざっていたんだ。
覚えていて。
クソも綺麗も混ざっているなら
あなたは美しい。
たとえ全てが分からなくなっても
向かう先はみんな知ってる。
自分の心の羅針盤が指す方へ。
"Good Midnight!"
少し不安定なタラップを歩く。
海の音と塩の匂い。
羅針盤が狂ったら
陸地とはおさらばだ!
入道雲って
なんで「道」って漢字が
入ってるんだろう。
蝉の声がうるさ過ぎる夏。
縁側で寝そべって
大きくなる入道雲を見てた。
起きたら半日終わってて
まだまだ寝ていたいと思ってた。
ずっとここに居たいとも、
ここじゃないどこかに行きたいとも
思った。
生ぬるくて懐かしい
何かの感じを思い出す度に
少しの涙が零れた。
私は現状の何かに満足してなくて
どうにかしようとしてるんだ。
でもその度に後ろに振り向いて
昔にすがりついている。
もう動く気がない身体に
燃え上がるような日差し。
やっぱり縁側はいいなぁ。
超暑いけど
超気持ちいい。
入道雲はまた大きくなっていた。
色々やらなきゃいけないことがある。
でも休みたいし、
やる気起きないし、
そうこうしてるうちに
明日になってるし。
"Good Midnight!"
いつかは私も
満足できるような環境を作って
今の私を迎えに行くから、
それまでまたね、
今日の私。
声を犠牲にしてまで
足を手に入れて
王子様に会いに来たのに
激しい勘違いで他の人と結婚する
私の王子様。
王子様と結ばれなかったので
私は海の泡になって消えてしまう。
って状況整理してみたものの
正直、
人間が嵐の海から
人間を助けるなんて
無理な話なのに
それを信じて結婚までいった
あの馬鹿王子は
死ぬほど殺したい。
こっちの声が出ないことをいい事に
勝手に解釈して、
一瞬でも好きになって
ここまで会いに来た私も
馬鹿みたいじゃない。
まあ、ここで我慢できなかったら
話が変わっちゃうから
何が何でも堪えなきゃなんだよね。
けど、
そんな私の努力とは裏腹に
お姉様たちは髪の毛を犠牲に
ナイフを持って
私を助けにきた。
これを王子様に刺して殺せば
あなたは泡になって消えずに済む、と。
お姉様たちにはいつも助けられたなぁ。
末の娘だからって
不自由にならないように
たくさん良くしてもらった。
でもその優しさ、今は要らない。
私超ムカついてる。
もちろんあの馬鹿王子にね!!
ナイフなんて貰ったら
今すぐにでも殺してしまうわ。
結婚相手共々
お亡くなりになって欲しい所だけど
この怒りが消えるのは
私の不幸が報われるのは
泡になって消えることだけみたい。
ナイフも身も海に投げ出して
心の中で強く思った。
早く泡になりたい。
"Good Midnight!"
気づいたらずーっと
海の中にいたような
海と空を見ていたように思った。
あぁ、今日は月が綺麗だなぁ。