そうだな…。
空みたいに届かない恋を
空恋というなら
私の恋愛というのは
全てが空恋なのだろう。
単刀直入に言うと
私はメンクイと言うやつで
顔が良ければ好きになる、
チョロいやつだ。
もちろん顔から入るだけで
性格が良いだろうなという仮定でも
好きになる、
本当にチョロいやつだ。
そう、すれ違う人間
ほぼ全員を好くのだ。
だけどそれはただの軽い恋。
届く届かないどころではない
可笑しすぎる恋だからね。
私は他とは違うであろう好きな人
という人を常に2以上作る。
通りすがりの人を好くのと
特定の人を好くのとで
違いがあるかもしれないと思った人が
他とは違うであろう好きな人。
私は好きの違いがわからないから
もしかしたらそれは
軽い恋かもしれないので
違うであろう、にしている。
そしてその人を複数作ることで
私は安定する。
依存しにくくなる。
けどもちろん
相手は私のことを好くはずがない、
そう思い込んで、思い込むようにして、
墓場まで持って行くつもりの恋。
私は残りの人生で
あと何百人の人への恋心を
墓場まで持って行くのかと思うと、
面白くてたまらない。
"Good Midnight!"
まあ、こういう訳で
私の恋愛は全て空恋。
空みたいに届かなくて
空っぽの恋。
なんて私にピッタリなのでしょう。
ある神社に
たまたまお守りを買いに行った時、
真っ白でしっぽが2つに分かれている
綺麗な猫に出会った。
けどその猫は
少ししんどそうな顔をして
飲み物をくれと言っているかのように
手招きの仕草をした。
ちょっと待っててと言い、
神主さんに
何か飲むものが無いか聞いてみる。
ここの神主さんは少し変わった人で
お祭りなどのイベント事で見かけるけど
いつも甘酒を飲んでいる。
神主さんが持ってきたのは
やっぱり甘酒で、
猫に飲ませる飲み物が
欲しかったんですけど…と言うと、
うん、ここの神社の猫でしょ?
多分甘酒が欲しいハズだよ。
そんなことを言って
元いた場所へ戻ってしまった。
仕方なく
白猫に甘酒を与える。
すると見る見るうちに猫は化け、
猫目で白髪の綺麗な人になった。
いやぁ、助かりました。
甘酒切らしちゃって
化けれなくて困ってたんですよぉ。
ところでお嬢さんは何で神社に?
びっくりしすぎて
返答するのに10秒ほどかかった。
最近何をするにも上手くいかなくて、
気休め程度ですが
お守りでもと思いまして。
それを聞くと白髪の人は
そういうことなら
私に任せてくださいなぁ。
まあまあ、
いい事が起きると信じていれば
勝手に起こるものですよぉ。
私に出会えたみたいにね。
あなたのこの先に、
神のご加護があらんことを。
"Good Midnight!"
気がつくと神社は見当たらなくて、
けど白髪の人の声は
まだ頭の中に響いていた。
何だか安心するような
優しいその声と
波音に耳を澄ませて。
今日で世界、終わるらしいよ。
そんな大規模なこと
起こるはずない。
世界はそう簡単に終わらない。
全てを疑って
全部見ようとしないで避けてきたけど
怖いものは怖くて、
幽霊よりも
気まぐれな災害の方が怖くて、
ずっと呆れるぐらい
毎日に嫌気がさしてたのに
いざとなったら動けなくて。
真夜中だっていうのに
ちっとも楽しくなくて。
守りたいものは死ぬほどある。
だってあの本も大事だし、
スマホは必需品だし、
あの写真は思い出が詰まってるし。
置いていける物がない。
大好きでいっぱいのこの部屋を
私は守りたいし、
ここに居たい。
怖いし震える。
下敷きになったらどうしようって
何回も考える。
"Good Midnight!"
いつもより何倍も
不安で押し潰されそうになる
いい真夜中。
無駄かと思われるこの時間に
ただ吹く青い風。
あれもダメこれもダメ。
人は所詮コマ。
テキトーに近づいて
情を持たず
上下関係さえ築けば、
あとは勝手に動いてくれるし
守ってくれるし
扱いやすい特攻隊にもなってくれる。
けど一人、
また一人と
人がいなくなる度に、
何のためにこんな事をしていて
ここにいるのか分からなくなる。
毎日
誰がどう私を倒すのか
考えて考えて
気づくと倒されたいと思っている。
定番のボスである魔王。
私には荷が重すぎる役割だった。
生まれた時から
両親がおらず、
生まれるといっても
そこにいる
私が私であると思う私は、
既に歳をとる魔王であった。
世界中の人を怯えさせ
脅し、操り、奪い、
時にはモンスターを生み出し
襲わせる。
人々の憎しみの対象に
私はなっていった。
役割を全うしようと私なりに…。
魔王は邪悪でいなくちゃいけない。
だから私がぼやぼやとしてたら
ダメなのに。
この重く太い鎖が
私を魔王の座から縛って逃さない。
"Good Midnight!"
ある時一人の猫又に
ネブラスオオカミを紹介された。
ネブラスオオカミは
他者をネブラスオオカミにし、
群れを作るのだが
あいにく私は頂点なので
群れることは不可能ということで、
願いを一つ
敬意を持って承ると言われ、
こう願った。
遠くへ行きたい。
勇者に倒されることも、
魔王の役割も
何もかも捨てて。
遺跡のクリスタルの床を
コツコツと歩く少女は
どこからともなくピアノを見つけ
身体を操られているかのように
スラスラと弾いていく。
そこには
優雅さがあったが
どこか悲しみもあった。
たった一人で
故郷へ戻ってきたかのような。
しかし少女は
枯れることのできない花。
そう、不死身。
少女は、
不死身の身体を治すために
永遠の命を捨てるために
故郷を出たが、
方法が見つからず
戻ってきたのだ。
戻ってきた頃には
200年ほど経っていて
故郷は
家族や友人はもちろん、
人一人いない静かな所となっていた。
大昔からある、
遺跡と合体している教会では
屋根は崩れ、
ツタや苔が好き放題生え、
ピアノだけを残して
遺跡となっていた。
雨が降ってもお構い無しに
少女は弾き続ける。
このまま
命が尽きればいいと思った。
このまま
自堕落にいたらいいと思った。
だってもう
少女の名前を知る者も
少女より年上の者もいないのだから。
悲しくても
涙は流れてこない。
私はまだ
誰かに涙を拭って欲しかったのに。
そう訴えるかのように
ピアノが弱く
ゆっくりになる。
いやまだ負けちゃダメだ。
対抗するように
ピアノが力強く
高い音と低い音を使い分けていく。
あと何百年、いや1000年経っても
きっとまだ少女の命は尽きない。
"Good Midnight!"
次はどこへ行けばいいのだろう。
どこを目指せばいいのだろう。
寂しげな目をする少女は
7時間迷走するピアノを弾き続けた。