勝ち負けなんて
気にしなくていい。
私は私を信じて
やれる事をやるだけ。
手順は手に染み込んでる。
作法というのは
勝手に覚えるもの。
だから無理に思い出さなくていい。
気にしなくていい。
お腹に力を入れつつ深呼吸して
緊張をバネにする。
今日は老若男女問わず行われる
執筆テスト。
2時間で1つの物語を作る。
最初は
一斉にペンのキャップを外し右側に、
下書き用の紙とペンを左側に置く。
これらの動作は流れるように
静かに行う。
時間が決まってるから
ペンを止める訳にはいかない。
作法を行っている間も
頭の中で物語は紡ぎ続ける。
私は毎回、
奇想天外な作品を作っている。
他の人はどうか知らないけど。
人によって物語の構成も
ジャンルも結末も違う。
だからこそ面白い。
もちろん順位はつけられる。
下位に入ると執筆補習会に呼ばれてしまうので
何とか避けたい。
中位は次の執筆テストに出られる権利、
上位にも、もちろんテストの権利が与えられる。
それだけでなくハンドルネームも与えられる。
私はハンドルネームが欲しかった。
ここでは執筆テストで上位を取った者以外
ハンドルネーム、つまりニックネームで
呼ぶことが禁止されていた。
本名に文句があるわけじゃないけど
ずっと憧れで
ずっとギリギリ届かなかった。
"Good Midnight!"
いつもとはちょっと違う、
雰囲気や背景を夜にした物語を紡いだ。
静かだけど灯りが賑やかで
涼しいけど暖かく包み込まれてるみたいで
寂しいけど安心できるような。
私的には
もう幕は降りてるはずなのに
まだ続く物語。
退場させて欲しいのに
周りは無理やり続けようとする。
傀儡人形みたいに
糸が張られて動かされる。
口を動かされて、
思ってもない言葉が出てくる。
手が動かされて、
何故か机に向かって書いている。
足が動かされて、
行きたくもない場所へ行く。
あれ、私何してたんだっけって何回も思う。
同じような傀儡人形が
何人もよく見える。
糸を切って逃げ出す人もいたけど
その先は真っ暗。
本当に家に帰れたんだろうか。
操りきれないくらい
下に体重をかけて
ぺたんっと座ってる人もいた。
けど座ると
次立つのがキツくて
私が見たのは2人、
床を突きぬけて下に落ちていった。
糸はもちろん体重を支えきれずに切れた。
私もどちらもやろうとしていた。
だからこそ
先にやってくれる人がいて
どうなるのかがわかってよかった。
要するに逃げられないってコト。
娯楽があるっていっても
満たされたり
幸せな気分になるのは一瞬だけ。
すぐ飽きる。
バリエーションが少ないのだ。
泣く暇もなく
次の日がやってくる。
"Good Midnight!"
今日も朝か昼かわからない1日を
傀儡人形みたいに
傀儡人形みたいな人と
社会を生きていく。
夏にここへ渡ってくる鳥。
渡り鳥は夏を連れて来る。
それからずーっといって
ここに夏を満遍なく降り注がせる。
秋頃になると
また夏を連れて去っていく。
私は夏も渡り鳥も大嫌いだ。
変な声で鳴くし、
夏は暑いし。
それでも毎年やってくる。
私のように嫌いな人もいれば
夏に見れる景色が好きだとか
暑いのが好きだとかいう
物好きな人もいる。
よくわからないけどね。
実際のところ、
物好きな人には会ったことがない。
ここには夏が嫌いな人しかないない。
だから渡り鳥の鳴き声を聞くと
みんな家に閉じこもって
エアコンをつけたり
扇風機をつけたりする。
日陰ロードといって
ミストと屋根がついた道が
街中に行き渡り、
日を浴びたら死ぬゾンビのように歩いた。
夏はぐーたらする季節なんて
定着してきちゃった頃、
ぱったりと渡り鳥が来なかった年があった。
みんな焦った。
いつ夏が来るのかわからなくて
1日中エアコンをつけた。
1日中扇風機をつけた。
1日中ミストをつけた。
そして電力不足になってきた時、
ようやく渡り鳥が来た。
10月のことだった。
"Good Midnight!"
秋だというのに
寝苦しい夜が続き
私はこうして
夜更かしが日課になった。
さらさらと落ちる星の砂。
この星月夜の砂漠の砂は
流れ星からできている。
いわゆる星のカケラ。
たまーに街中にも落ちてるらしいけど
大体はここに集まる。
私はこの砂漠の管理と
数ヶ月前に観測された
三日月クジラの確認をしている。
星月夜の砂漠では
いつも三日月が空に昇っているけれど
ある1週間だけは
三日月が特別輝いて見える。
その1週間だけ
三日月クジラは海面から顔を出す。
毎日ここに来るのは大変だけど
それなりにやりがいもあって
まあ楽しんでる。
クジラ以外には
動物は観測されていない。
だから私はそれも見なければいけない。
砂漠を隅から隅まで知るには
まだまだ時間がかかる。
機械は空気を汚す。
なので人の手や目で
しっかり見てやるしかないんだ。
"Good Midnight!"
朝日が昇らず
三日月の綺麗な砂漠。
私はいつまで
知らないことを知ればいいんだろう。
昔から飽き性だった。
どんな事にも興味が湧いて
やり始めるのはいいけど
続かない。
思っていたのと違ったり
ちょっとでも
上手くいかなかったりしたら
すぐ飽きてやる気も失せてしまう。
私は何かをしていたかった。
何かを続けていたかった。
けど興味が1度無くなると
どうも身体が動かない。
思考も他の考えが浮かんで
まとまらなくなる。
もう二度と興味を持たなくなる。
正直私は私に何かすることを
おすすめしたくない。
それでもやりたい、気になる。
好奇心が旺盛だったんだな。
映画にもテレビにも
本にもアニメにも影響された。
宇宙飛行士になりたい、
落語家になりたい、
パルクールをしてみたい、
弓道部に入ってみたい。
ああ、嫌だ。
好きなものが好きじゃなくなる。
飽きてくる。
どうでもよくなってくる。
私はこの世に飽きないものは無いと思った。
だから求めるのをやめて
今ある好きなものを
飽きない努力をした。
ずっと見ていたい推しも
2週間に1回だけ引き出しから出して
飾って眺めた。
アニメも見る回数を減らした。
映画は上映中の3文字を見ないようにした。
テレビは天気などの
最低限の情報だけを見るようにした。
スマホも使用頻度を少なく…。
結局飽きるどころか
楽しみがなくなって
なんでここにいるのか分からなくなった。
久しぶりにテレビを
コマーシャルまで見ていた時
あ、今私人生に飽きてる。と、
ふと思った。
"Good Midnight!"
それでも信じたいものも
好きなものも
そのままでいたい。
こんなわがままも多分
これで最後。