ドーナツの真ん中に
ぽっかりと空いた穴を食べたくて
ずっと眺めてた。
みんな普通に食べていく。
ただ君だけは
私の前に座って
ドーナツの穴の食べ方を教えてくれた。
ドーナツの穴の周りを
ぐるっと食べると
最後に穴だけ残って食べれるよ、と。
それからなんとなく価値観が合ってて
好きな物も似てて
嫌いな物や行動も同じだから
一緒にいてしんどくないから
よく二人で行動した。
映画で泣けないくせに
どこにでもある小説で泣けちゃう所も、
朝起きたら枕がベッドから落ちてて
寝相と寝起きの機嫌が悪い所も、
ゲームも勉強も習い事も
中途半端に始めて
中途半端な上達具合で
なんにも無くなっちゃったって感じる所も、
全部全部
私と君は似ていた。
だからこそ
私は離れたかった。
気持ち悪かった。
ドッペルゲンガーみたいで
気味が悪かった。
それでも離れられない。
気づけば一緒にいて、
ご飯も食べていて、
横に君が居ないという空間が
意識できないというか。
"Good Midnight!"
友達ができないと、
ひとりぼっちで過ごす人が多い。
けどある人は
子どもの頃から
イマジナリーフレンドと
過ごしていたんだとか。
1人で話していたんだとか。
未来への船は
まもなく出港いたします。
お乗りの際は
お足元に隙間や水たまりがございますので、
ご注意ください。
プーーッ。
.......ジーッ、...ザザッ。
皆さん、こんばんは。
本日は未来行きの船、
「深海のクジラ」をご利用くださり
誠にありがとうございます。
こちらの船は、
この先が不安なお客様を乗せ、
夜の海を漂う
寄り添いの船となっております。
行き先は1週間後かもしれませんし、
1ヶ月後かもしれませんので、
迷子船ともいわれております。
皆さんの船内にあるベッドに座って
どうぞごゆっくり
皆さんの未来をお楽しみください。
初めてご利用の方もいらっしゃいますので、
少しだけ等船のことを説明いたします。
まず窓を見ていただきますと
暗い暗い大海原がご覧いただけるかと思います。
これが皆さんの未来です。
真っ暗でどこに何があるのか
さっぱりわかりませんよね?
ご安心ください。
等船に乗っていれば
だんだん朝日が昇ってきて
外が見えるようになります。
しかし日が昇る時間には個人差がございます。
その間はごゆっくりおくつろぎください。
朝日が昇りますと、
外が見えて等船を下船できるようになります。
もちろん船酔いで
今すぐ降りたい!という方が
いらっしゃいましたら、
下船されることも可能でございます。
船の広さは皆さんのご想像次第。
それでは皆さんの未来に光と幸あれ。
Good Midnight!。
...プツンッ。
土曜は静かなる森へ。
私の村での暗黙のルール。
毎週土曜にキツネのお面をつけて
森へ行かなければいけない。
2時間ほど散歩して
帰ってくるだけでいいのだけど、
その間キツネのお面は
絶対に外しちゃいけない。
狐に似た人がその森にはいて
村に流れる水を清めてくれたり
よく自然災害から守ってくれる。
でも寂しがり屋で
土曜は特に寂しい日なんだとか。
だからキツネのお面をつけるんだけど、
森に入れるのはお面をつけて
狐に似た人が狐だと思うからで
外したら人間ってことがわかっちゃうから
食べられると。
信じてない人なんか
この村にはいない。
すでに20人以上も食われてるから。
そして私は今
お面を外してしまった。
いや、外されてしまった。
ほーら、やっぱりや。
私こんな子ども騙しに
騙されるわけないんよ!
肉眼で見た狐に似た人は
温厚でとても私を今から食べそうな人には
見えなかった。
私、人は食べへんよ!
誰かが私になりすまして
人食べてるみたいなんよ。
ちょいとお姉さん手伝ってくれへん?
私はどこかで暗黙のルールを
信じていなかったのかもしれない。
想像通りのおっとりとした
真っ赤な着物を着た
本当に狐に似ている人。
いいですよ、と
小さな声で私は答えた。
"Good Midnight!"
最後に見たのは
ありがとさん!と
狐に似た人が笑っている顔だった。
私の背中は食いちぎられ
静かなる森に
真っ赤な血の海が広がっていった。
つるっとすすり飲み込んだ
ミートソースパスタ。
ぐるぐるフォークを回して
またパスタを持ち上げて口に運ぶ。
食事と会話は一緒。
話しかけたらフォークを刺してるし、
話しかけられたら答えるために
口を開いて食べる。
あれ?って思って噛み合わなかった時は
飲み込んで隠して会話を続ける。
嫌いな食べ物があっても
飲み込んだらもう私になる。
そうやって蓄積した嫌いな食べ物が
私自身を嫌いにさせる。
目にも髪にも爪にも皮膚にも
あの想像するだけでも吐き気がする
嫌いな食べ物が分解されて
使われてると考えるだけで。
歯に詰まった食べ物は
飲み込みきれなかった引っかかったもの。
放ってほいて
飲み込んでしまえればよかったのに
いやチガウ、向こうがチガウなんて
引っかかっるから。
おえって吐いちゃうのは
本当に考え方が違った時。
どうやっても分かり合えない時だけ。
"Good Midnight!"
いつか歯に詰まることも
吐くこともなくなる。
パスタ以外のものも食べれるようになる。
キットそうなるから、
今はまだオモウママ夢を描け。
身長を伸ばしたい?
厚底を履いても足りない?
自販機の1番上が届かない……?
それはもう自分で頑張って
身長伸ばしてねー。
意味がわからない広告が
また目に入る。
赤いセーターを着て私は揺られる。
少し電車に乗っただけで
大嫌いな広告がよく目に入ってしまう。
昔はこんな広告ばっかりじゃなかったから
好きでも嫌いでもなかったのに
当たり前のことを書く広告や
さっきのような
広告にしなくてもいいような広告が
最近は増えてしまった。
なんでもデザインを作ったり
広告に使う文を考えたりする会社が
急に倒産したんだとか。
全ての広告を一社だけに任せてた
世の中も世の中だけど。
おかしくなった電車の中。
また見てしまった。
君、キーボード打つのおっそいねぇ。
打ちやすいけど試してみる?
下手な手描きのイラストが
よく分からない四角い物体を持って言っている
キーボードの広告。
この電車に乗ってる人も
どこにいる人でも
この広告はおかしくて嫌だと思っていた。
けど誰も止めはしない。
止めたら自分がやらなきゃいけない。
人ってのは面倒くさがりばっかりで
誰も動けない。
行動を起こせない。
私もその中の一人。
さっさと用事を済ませ
コンビニで買ったお茶を飲む。
またあの電車に乗らなきゃいけないのかと思うと
どうしても家に帰る気になれなかった。
"Good Midnight!"
世界なんて狂ったままだと
そのうちみんな狂っていって
狂ってることが普通になっちゃって。
誰も気づけないまま
おかしくなっていっちゃって。