土曜は静かなる森へ。
私の村での暗黙のルール。
毎週土曜にキツネのお面をつけて
森へ行かなければいけない。
2時間ほど散歩して
帰ってくるだけでいいのだけど、
その間キツネのお面は
絶対に外しちゃいけない。
狐に似た人がその森にはいて
村に流れる水を清めてくれたり
よく自然災害から守ってくれる。
でも寂しがり屋で
土曜は特に寂しい日なんだとか。
だからキツネのお面をつけるんだけど、
森に入れるのはお面をつけて
狐に似た人が狐だと思うからで
外したら人間ってことがわかっちゃうから
食べられると。
信じてない人なんか
この村にはいない。
すでに20人以上も食われてるから。
そして私は今
お面を外してしまった。
いや、外されてしまった。
ほーら、やっぱりや。
私こんな子ども騙しに
騙されるわけないんよ!
肉眼で見た狐に似た人は
温厚でとても私を今から食べそうな人には
見えなかった。
私、人は食べへんよ!
誰かが私になりすまして
人食べてるみたいなんよ。
ちょいとお姉さん手伝ってくれへん?
私はどこかで暗黙のルールを
信じていなかったのかもしれない。
想像通りのおっとりとした
真っ赤な着物を着た
本当に狐に似ている人。
いいですよ、と
小さな声で私は答えた。
"Good Midnight!"
最後に見たのは
ありがとさん!と
狐に似た人が笑っている顔だった。
私の背中は食いちぎられ
静かなる森に
真っ赤な血の海が広がっていった。
5/10/2025, 4:08:39 PM