霧に包まれた
ある国のある場所のどこか。
草原ということしかわからず、
前に進もうにも
どこから前に進んだかわからなくなる。
至る所に同じくらいの大きさの
水たまりがあって、
方向感覚を完全に奪ってくる。
広く解放感のあるここは
天気が最悪だと迷路になるのか。
持ち物全て無し。
大雨で走ってここを抜けようとした時に転んで
荷物は霧に消えた。
草で手を切ったんだろう。
血が出ていた。
霧が晴れるまでここで過ごさなくちゃならない。
もしかしたらここで死ぬかもしれない。
不安が私を飲み込んでいった。
どれくらい経っただろう。
体感では3時間半だが、
多分実際には10分程度。
体力を無駄に使わないために
ずっとしゃがみこんでいたのに、
目の前に庭園が現れた。
甘い匂い。
コアジサイかな。
庭園に入ると、
色んな花があった。
私は植物に詳しくないので
どれも知らなかったけど
珍しいのは確かだった。
絶望から救ってくれた希望の光。
私は自信と体力をなぜか取り戻した。
歩いていこう。
花の香りと共に。
庭園を抜け、
霧を抜け、
荷物を回収し、
元いた場所に戻るんだ。
"Good Midnight!"
誰かに必要としてもらえるだけで
よかったのに。
誰も必要としてくれないし、
こっちを見てくれないから、
いつの間にか見えなくなっちゃった!
いやぁ、透明人間ってやつ?
女風呂でも覗きに行こうかな。
私女だけど。
どうやら姿は見えずとも
声は聞こえるらしい。
車に轢かれそうになった時に、
うわっと声を出したら
周りの人がきょろきょろしてた。
それを利用して
人で遊ぶことにした!
真夜中。
誰でもいいから声をかける。
ねえ。
ちょっと。
そしたら大体の人は後ろに向かって
あなたは誰なの、とかなんとか言う。
面白そうな人は着いていくべし。
この第一声で決めて。
数日もしたら向こうから声をかけられる。
ねえ。
誰かに私のことを認めてもらった、
ここにいるってわかってもらえたと思って
嬉しくて返事する。
はぁい。
そしたらその人はびっくりした目で
こっちを見てくる。
しまった。
姿が見えてる。
太陽の光を跳ね返さなかった肉体のことは
腕についたトランシーバーが
姿が現われていると教えてくれた。
キラリと光っていたのだ。
太陽の光を跳ね返して。
最初の頃は逃げ出していた。
けど最近はここでにこにこしながら
もう片方だと思われるトランシーバーを
差し出したら
もっと面白いと思い、
そうしている。
しかし姿が見えた時の
心のざわめきは
消えるはずもなく。
慣れないものだなぁ。
ご老中や占い師には
多分この類の人間を見たことがあるし
知っているんだろう。
目の前を通りかかると
必ず目が合うし、こっちに会釈までしてくる。
"Good Midnight!"
誰にも相手されないというのは悲しいけど、
姿が見えていた時にはできなかったこと、
そう、
見知らぬ人で遊ぶことができて
私は今の生活がすこぶる気に入っている。
君は可愛い私の黒猫。
青いリボンがよく似合ってた。
でも君はよく
夜中に窓を開けて
逃げ出してたよね。
私毎回心配してるんだから。
君を探して
港で船に乗せてもらったり、
オオカミの少女に白雲峠で
一緒に聞き回ってもらったりしたよ。
いつも遠いところに行ってて
誰かの花畑の傍で寝てたり、
迷子列車の駅にいたりしたよね。
マイペースで自由で気ままで、
ジト目の絵に描いたような君は
いつだったか、
自力で帰ってきてる時があった。
嬉しかったよ。
だからその時は
一緒に遠いところまで行った。
私は君を探すために遠いところに行くよりも
君と遠いところに行った方が
すごく楽しかったよ。
"Good Midnight!"
ね、君は次どこに行きたい?
私は満月が見えるところに行きたいな。
じゃあ明日は家にいてよね。
一緒に遠いところに行って
満月を見ようよ。
透き通った透明なりんご。
毒があるけど
泣きそうになるほど
優しい毒。
そうやって
ゆっくりじっくり育てた心を
最後にりんごはがぶっと食べる。
そして木を生やし
また透明なりんごが生まれる。
みんな知らない間にひと口かじってて
みんな知らない間に心を食われ死んでいく。
ある時はパンに入っていた。
またある時は飲み水に混じっていた。
農作物にもりんごの成分が入って
一時期世界中でりんごが採れた。
何も食べられるものがなくなって
人類はここで終わりかと思われた。
しかし
毒が効かない、
心を持たない者とされる人が現れた。
それはフクロウに似た人と
狐に似た人。
私らちゃんと心持っとるし、
人間なのやけどねぇ。おかしいわぁ。
と、狐に似た人は言っていたが、
フクロウに似た人は無口のようで
本当に心を持っていないように見えた。
世界中の透明なりんごを2人に食べてもらい、
農作物は蘇り、
水は綺麗になった。
学者が少し解剖させて欲しいなんて
無茶苦茶なことを2人に言っていたが、
もちろん丁重にお断りしていた。
"Good Midnight!"
何十年か経つと
2人がりんごを食べ世界を救ったことを知る人は
もう1人もいなくなっていた。
ある所に
大切な鈴を
誰にも見せずに
隠している少女がいました。
その行動が気にかかった先生は
なぜ鈴がお気に入りなことを
他の子に言わないのか尋ねました。
すると少女は
だってこれが大切な物言うて見せたら
いいなぁ思た子が盗ってきたり、
交換持ちかけられたり
するかもしれへんやろ?
だから大切な物は
見せずに閉まって誰にも言わへん。
でも先生、
なんで鈴がお気に入りってわかったん?
と言いました。
確かにプリンを食べられたなどは事故ですが、
泥棒猫なんて言葉がある以上、
少女の警戒と防御はいいものです。
しかし先生は困ります。
少女には疑うことを知らず
ピュアにでも育って欲しいと思っていたからです。
それはここの教育方針でもありました。
疑心暗鬼で溢れかえる世の中に
少しでも使える人間を。ということです。
なのに疑心暗鬼の鏡のような少女には
別の先生も頭を抱えます。
そこで
お偉いさんと先生は
少女を育てないことにしました。
教育を放棄したのです。
"Good Midnight!"
この話はこれで終わり、
また初まる。
それは少女の話。
フクロウに似た人に拾われ、育てられ、
鈴が今でも大切な少女の。