無くなりやすくて、
無くしやすくて、
手が届いたと思うと消えて、
手が届かないと分かったら諦める。
そういう
ちょっとレアな秘密の場所。
じゃあどうやって行くんだって話だけど、
行き方なんてない。
ふとした時に行けて
ただ花が綺麗で
そよ風が気持ちよくて
たまに黒猫がいるだけ。
行きたい時に行けなくて
忘れた頃に行けちゃう。
それって結構すごいよなぁ。
フクロウに似た店員さんに
今日もその場所の特徴を話す。
どこにあるかも
誰が猫に餌をやってるかも
全然わからないから、
私はこうやって
信頼できる人に話していっている。
狐に似たあの人なら、知ってるんじゃないですか?
フクロウに似た店員さんにそう言われて、
そういえば話していないことを思い出した。
早足でお店を出て
狐に似た人に会いに行った。
そんな急いでどないしはったん?
向こうから来てくれるとは。
狐に似た人は
にこにこしながら私の後ろに立っていた。
千年は生きてるこの人なら
知ってるかもしれないという期待が
私の喋る速度を早くした。
んー、私そないな所聞いたことないかもやわ。
…って、あからさまにガッカリした顔せんといてや〜。
冗談やよ。私そこ知っとる。
連れてったろうか?
首が取れるくらい縦に振り
初めて行きたい時に秘密の場所に行けた。
"Good Midnight!"
狐に似た人にお礼を言い、
行き方も教えてもらった。
どこかの誰かさんにも教えてあげようか
迷ったけど、
今日はもう眠たいから。
小梅。
酸っぱいのは苦手なのに
飴が食べたくて買った。
最初食べた時は酸っぱくて
最後まで食べられそうに無かったけど
だんだん甘くなってきて
美味しくて好きになった。
2個だけ入ってる大玉は
とびきり酸っぱくて
とびきり甘かった。
何かを忘れたい時、
空を飛びたい時、
ちょっと疲れた時、
お酒やタバコより吹っ飛ばせる
合法の飴。
食べすぎると気持ち悪くなるところは
お酒とタバコと変わらないけど。
自分の中でトクベツを作ると
大玉を食べるために頑張れる。
トクベツっていうのは例えば、
ちょっとだけ頑張った時とか
死にたいと思いながら生きてる時とか。
今日はトクベツだったから
大玉を口に入れて
下手っぴな歌を歌った。
ララライ、ララライ
誰も知らない
名も無い今を駆けてゆくの
あの三日月へ手を伸ばして。
叶うのなら
私もUのセカイに行きたいなーって。
そんな言葉をポロッと零すと
小さくなっていく小梅が
叶うわけないって
現実逃避なんかするなって言ってる気がして、
今までずっと味方でいてくれた小梅が
急に私を突き放したみたいで。
"Good Midnight!"
ああ、
前が見えなくたって
小梅を信じていたかったのになぁ。
小梅は私じゃだめなのかなぁ。
ひゅーっと通り抜ける春の風。
まだ肌寒くて
冬の感じが残っているけれど、
それでも薄着をして
風に当たりたくて。
風に吹いて欲しくて。
今日、
絵を描いたんだ。
ショウジョウトキっていう
フラミンゴみたいな赤色で、
くちばしが細長くて
羽の先が黒い鳥。
目立つ色をしてて
見つけやすいと思う。
見たことはないけど
多分風に乗るのが上手い。
風に話しかけてもらってるみたいに
高く飛ぶと思う。
トンビもびっくりするほど。
風が運ぶものは
いつだって鳥とか葉っぱとか
私に足りてないもので
見る度に
ああ、そうだった。って気付かされる。
どう思ったって変わらない未来と過去が
私を縛ってきて
ちぎれそうになるけど
風は風邪も持ってきてくれるみたいで。
熱が40度になった時は
暑すぎて倒れるかと思った。
"Good Midnight!"
だから何でもかんでも受け取らずに
花びらとか
綺麗な葉っぱとか
そういう小さな幸せが飛んできた時
受け取れたらいいなぁって。
question one。
生まれながら持つと言われる人それぞれの能力は
本当に持っているのでしょうか。
みんな同じように出来てしまうのではないでしょうか。
question two。
人は物をすり抜けられないものなのでしょうか。
出来ないと思ってしまうから
出来ないのではないでしょうか。
question three。
夢とは本当に寝ている間に
自分が作り出した世界なのでしょうか。
思い出したら辛くなる
楽しい思い出なのではないでしょうか。
大体こんなことが書かれたメモ。
古そうな紙に書かれていて
読むのも一苦労だった。
このメモは私も一部共感するところがあったので
捨てる気になれなかった。
上手くいかないこと続きで
もみじの葉を見たいような日だったので
お守り代わりにでも持っておこうかと。
手に取る本は
どれも面白そうな表紙ばかりで
内容を覚えていても
読み始めて、読み終えて、
また読み始めてしまう。
それを世界と言うんだね。
本の中にはその言葉も
似た言葉も出てこないのに
内容にぴったりな言葉。
なぜか
メモもこの本にぴったりな気がして。
"Good Midnight!"
夕焼けに手を伸ばして
メモと本を見比べる。
空を落ちて、君と出会う。
キャッチコピーにも惹かれてしまって。
嘘、嘘、嘘。
私は昔から嘘が大好きだった。
幸せな嘘だけじゃなくて
小さな嘘から大きな嘘まで。
ずっとつき続けてきたものだから、
信頼を失うだとか、
友達がいなくなるだとか言われ続けたけど、
本当の自分なんか
自分だけが知ってればそれでいいという
塞ぎ込んだ性格だったから
全く聞かなかった。
偽りのない約束をしたのは
白髪の少女に出会ったその日のこと。
バス停でバスを待っていた時、
白雲峠から来たんだ。なんて
自身の話を突然し始めた白髪の美しい少女。
おかしい人か、宗教勧誘か何かの人だろうと思い
無視することにした。
けど、
キミ、虚言癖持ち?
なんて言われたら
興味には少し足りない感情を抱くのは
不思議では無い気がして。
思わず耳を傾けてしまう。
ボクさ、キミの嘘どうかと思うんだよね。
そのうち一人で死にそーじゃん?
だからボクともう嘘つかないって
約束して欲しいと思うんだけど。
私から出てくる言葉に偽り以外の文字は無いと
十分承知だったのだろう。
ちなみに、破ったらキミのこと丸呑みしちゃうからね。
ボク、オオカミなんだ。
嘘だとすぐに思ったけど
どこか嘘では無い気がして。
それに、
本当の約束というものをしてみたかった私は
少女と約束をした。
じゃ、破ったらすぐ来るからね。
と言った少女は
本当にオオカミになり
四足歩行でどこかへ行ってしまった。
"Good Midnight!"
これが人生で初めてにして最大の約束。
どんな嘘もつけないというのは
骨が折れるほど辛かった。
でもまだ、
まだ丸呑みされるくらいの人になってないから。
少女が丸呑みできなくなるぐらい
いなくなったらすぐわかるような大物になろうと
私には似合わない目標を持って
嘘をつくために頑張ってきたから。