昼間、
あの子を探してたら
草むらに寝転んで昼寝してたんだ。
手をぺろぺろと舐めても起きないから
私は仕方なく隣で寝てやったの。
それで起きたらあの子はもう起きてて、
私より早く起きたんなら
別にどこかほっつき歩いててもよかったのにと
思いながら
花畑でまた寝ようと思ったの。
そしたらあの子、
私を持ち上げて家まで連れて行っちゃって
びっくりしたわ。
でもお腹は空いてたから
晩御飯の時間だったってことに気がついたときは
嬉しかった。
夜なのに暖かいその日、
あの子は寝ようとせずに
1人で家を出ていったんだ。
あの子はしっかりしてるけど
どこか注意力がないのよね。
だからついて行ってあげた。
そしたら湖にボートを出して乗ってて
私もそーっと乗っておいた。
けど流石に湖の真上で危険はなくて
もういいか、って寝てみた。
吊るしたランプで本を読むあの子は
静かだし、
笑ってもいないけど
楽しそうに読んでるのがわかった。
もう年だから
この頃ずっと眠い。って言ってみたいところだけど、
まだ2歳だからね、私。
まだまだ長い終わらない物語だからね。
たまにはあの子とボートに揺られて
過ごす夜もいいなぁと
目を瞑った。
"Good Midnight!"
幸せになるなよ。
昔の私は今の私を
引っ張って
後ろに引きずり込もうとします。
昔と今は違うのに
私はなんだか囚われてしまいます。
ちょっとした事でも
頭に残って
後から前のと合わせて
大勢で私を苦しめます。
どんなことをしていても
頭のどこかにはいて、
何をしても楽しめないんです。
受け入れてあげたい、
でも引きずり込まれたくはない。
少し自己中心的で
欲張りな気もしますが
私は捨てたくなくて
いつまでも目を瞑っていました。
そしていつしか
昔の私と今の私の間に壁を作って
向こう側のことを忘れるようにしたんです。
いや、
忘れるようにしたかったんです。
実際は忘れられませんでした。
忘れようとすると
毎晩毎晩
悪夢を見るんです。
お前なんかが幸せになるな。
私は私だろ?
何も変わっちゃいないさ。
息が浅くなって
汗をかいて起きます。
ある日見つけたのは
夜が似合う
夜の散歩の話でした。
詳しくは思い出すのではなく
読みたいのですが、
私の大好きな本になった事、
"Good Midnight!"
で始まる
お洒落な本だということは言っておきます。
いつの間にかまた昔の私が出てきて
後ろに引きずり込もうとします。
でも今日の私は
私にやさしい嘘をついてあげます。
遠くから見たら星に見えるの。
だからもう少し遠くでお互いを見ようよ。
瞳をとじて
耳を澄まして
山の香りとそよ風が吹く。
冬のはずなのに
なんだか暖かくて
思わず草むらに寝転んで
昼寝をしたんだ。
でも黒猫は
私の隣で4時間も寝ちゃって
中々動けなかった。
さっきまで太陽は真上にあったのに
猫があくびをしながら呑気に起きた時には
もう夕焼けが綺麗だったよね。
寝てた?私が?と言わんばかりの顔で
スタスタ歩いていった猫は
花畑の中で
また寝ようとしたんだよ。
もう晩御飯も作っちゃうから
身体をひょいと持ち上げて
家まで抱っこした。
ちょっと驚いてたけど
いつまでも寝ぼけるやつじゃないからね、
うちの黒猫は。
すぐ晩御飯に食いついちゃって。
まあ、私も
沢山寝たからお腹すいてたんだけどね。
夜も暖かかったし
寝たから眠くなくて
久しぶりに湖に出てみた。
ボートが少し揺れても
猫は顔すら上げずに寝っ転がってて
あれだけ寝たのにまだ寝るの?って
いつものことだけど。
お陰で私も静かに本が読めていいしね。
ランプを吊るして
湖の真ん中で読む本は
どんな本でも本当に面白い。
"Good Midnight!"
その一言から始まる
私の大好きな本は
湖に溶け込めるほど
青と水色が綺麗な表紙だった。
悲しい、嬉しい、
楽しい、苦しい。
感情にはある程度
色がついていて
水色、ピンク、
黄色、紫。
こんなもんだろう。
大体の人は1度波が過ぎると
なぜこんな感情なのかわからなくなる。
そしてその感情は忘れられて
新しい感情に切り替えられる。
混ざったら困るから。
でも感情貯金をする人もいる。
お金を貯めるように
感情を貯めること。
混ざらないように
上手いこと違う容器に移し替えて
そのままゆっくり蓋を閉める。
貯めてどうするのか、
使い道は人それぞれで
楽しいって思いたいのに思えない時とかに
容器から楽しいを取り出して
食べてみると
その当時の楽しいと
同じ楽しいを思える。
だから普段
顔に出やすいなぁと思ってる人は
実は感情貯金を使ってるだけかも…?
なんてね。
私も感情貯金をしている。
でも私は感情貯金なんて使わなくても
本当に顔に出やすいから
これは人形みたいに物静かで
真顔を貫いてるあなたにあげるもの。
指示されないと動かないのかと思ったら
指示されても動かなくて
私は少し笑ってしまった。
その時にあなたにも笑って欲しくて、
感情貯金を始めたんだ。
"Good Midnight!"
あなたにはいつの間にか
3日、1週間、
1ヶ月、1年と
会えなくなっていったけど、
今日のことも
覚えていたくないことも
普通にこなしていたことも
あれもこれも
全部全部、
いつかの記憶にいる
あなたへの贈り物。
私が動かす船は
笑っちゃうほどに
遅い速度で進んでたけど
沈まなけりゃいいかって、
地図も無しで羅針盤片手にたどり着いた港で
必要な物を買ったり
宿に泊まったりして
また波に乗って旅に出る。
この旅が上手くいくかなんて誰にもわからない。
またこの港の人達に会えるかなんて
私にもわからない。
時には行きたい場所があるという人を乗せて
嵐を突っ切ったり、
やっぱりここの方が好きだと言って
違う港で降りたり、
でも私の船に乗ってる人は誰一人咎めない。
人は好きに旅に出て好きに生きる。
正しい道なんか海にもわからない。
人の終わりの場所なんか空にもわからない。
ただ丸くて青いこの星の旅人達は
好きにすればいいってこと!
何か違うと思ったら
直感でいいと思った方に突き進んだらいい。
たとえ闇でもね。
上手くいくかはわからない。
でも自分が選んだところなら
きっとそれが一番好きなところ。
海上タクシーみたいな船だけど
それぞれの旅があって
少し遠いところに行きたい人も
半日で着くところに行きたい人も
この船で揺られてる。
"Good Midnight!"
ゆっくりと漂えるこの海の上は
私にとって今は一番好きなところ。
もしかしたらこの先
どこかの港が一番好きなところに
なるかもしれない。
その時私は船旅を辞めるかもしれない。
そんないつかが来るまで
私は旅を続ける。