人生なんて余るほどないし
たかがクリスマスの過ごし方で
クリぼっちだの
リア充だの
知りません。
寒くなると時間が早くて
すぐ年を越してしまいそうなので
バス停に向かい歩いています。
バス停の方から来てくれればいいのにな
なんて意味が無いことは少しだけ。
エアコンの代わりにかき氷。
こたつの代わりに愛猫を。
何度も見えないフリをしてきた
届きそうで届かない自分。
本音は吐き出せないから生まれるものなのに
誰かに話せるなら
それは本音じゃない、
空元気かもしれないなんて
私また嫌いなことを。
ルーズリーフに書き留めた思いは
墓場まで持っていって
ビリビリに破いてやります。
宇宙喫茶で
そうしたように。
"Good Midnight!"
未知の世界が広がってる?
想像力は無限大?
そんなことを言ってる間に
眠くなってきますよ。
メリークリスマス
なんて言い合う人はいないから
イブの夜はEveさんの曲で終わる。
とりあえず「心海」から聴いて
「ファイトソング」で
気分を上げていく。
「レーゾンデートル」は今日みたいな日に
ピッタリだよね。
最後に
こんなに寂しい夜も
エンドロールに入って終わらせる「心予報」。
私の完璧なクリスマスイブ。
チョコレートケーキを食べ終わり
フォークを咥えていると
1冊の漫画が目に入った。
それは夜が似合う本だった。
真夜中の空を飛んでる気分になったり、
夕焼けを眺めてる気分になる
没入感がたまらない本。
イブに関係ない物は大好きだ。
今日の〆はこれにしようと
口をウィスカーパッドにし、
目を輝かせた。
"Good Midnight!"
この一文はやっぱり
私を何回も救って幸せにしてくれる。
誰にも見えないような
空気みたいな私の1日が
私にだけは追えるような気がした。
足も頭もお腹も痛い今日。
部屋の電気をつけるのさえ億劫で、
何故か近くに
ライターとキャンドルがあったから
火をつけて焚く。
匂い付きだったみたいで
部屋に凄い広がった。
更に頭痛くなってきて
消したかったけど
消せなかった。
重い瞼をそのまま閉じた。
世界とかどうでもいいけど
起きたら痛いの全部無くなってますようにって。
珍しく夢を見た。
季節外れだけど
綺麗な夜桜が
一面に咲いてて
花吹雪が耐えなくて。
起きたら家で、
夢だったことに気づいた。
痛みは全部無くなってて
サンタさんからのプレゼントかななんて。
"Good Midnight!"
ちょっと早めの
ちょっと嬉しい贈り物。
明日も頑張れそう、
溶けたロウを眺めながら思った。
私は逃げるように家を出た。
部屋に充満していた、
私の大嫌いなゆずの香り。
姉と2人暮らしなのだけど
好みが恐ろしく違う。
喧嘩しそうになると
無言でどちらかが頭を冷やしに行く
それが私たち。
今日は私が出ていく番。
といっても
行くところも特に無く、
頭も冷めず
目を擦って歩くことしか出来なかった。
こんな毎日を過ごして
果たして幸せになれる日は来るのか。
そんな考えばかり浮かんでくる。
少し上を向いて歩いていた時、
白髪の綺麗な少女とぶつかった。
謝ろうとすると
ほぉ。これは中々良さそうだ。
と言い
私を強引に引っ張って
どこかへ連れていった。
よくわからないまま
ただ走っていた。
ここは?
聞くとここは白雲峠と言うらしい。
見晴らしが良かったので
そっちに気を取られていると
少女はオオカミになっていた。
キミ、今の生活が気に食わないんでしょ?
ボクも人間の時はそうだった。
でもね、ネブラスオオカミは
ボクを救ってくれたんだ。
この少女は何を言っているんだろう。
そろそろ分からなくなってきたんじゃない?
ボクは優しいから
キミみたいな人を救いたくてさ。
少女の言葉の意味がわからない。
なんというか、
知らない言語で話しかけられてるみたいな。
救う…と言っても、
偉い人に頼まれてキミを呼んだんだけどね。
あー、2割に入っちゃいそう。
最後に聞こえたのは
そんな少女の狂った声だった。
"Good Midnight!"
ちょっと
家を出ていくってどういうことよ!
しかも白雲峠に行くって、
どこよそこ!
荒らげた姉の声が聞こえてくる。
お姉ちゃん私
素晴らしいことに気がついて
それになりたくなったの!
白髪の少女がね、
私のことを救ってくれるって!
私、ネブラスオオカミって素晴らしいと思う!
オーバーサイズのパーカー、
短い黒のスカート、
ひらひらがついた
かかとの高い靴。
どれも昨日買ったばかりの新品。
私の大好きが詰まった物ばかり。
幸せすぎて辛くなってくる。
どうせ1週間もすれば
全部普通になっちゃうけど。
家を出て
真っ直ぐ山へ向かう。
山登りの格好じゃないことはわかってる。
でもそれがいい。
少し登ったところで
登山コースを外れ
右に大きく曲がっていく。
すると
湖と綺麗な紅葉が広がるところに出る。
ちょっと上がって
羽根なんか無いのに
あるかのように
大空へジャンプして飛び出す。
もちろん垂直落下。
冬の水は冷たくて
凍ってしまいそうだった。
溺れるみたいに
息を全て吐き出す。
水中の空気は綺麗だ。
水面も泡沫ができて綺麗。
でも陸では見えない。
綺麗なのになぁ。
本当に溺れて溺死しそうだったので
仕方なく水面に顔を出す。
白鷺が丁度水を飲みに来ていたらしく
私が顔を出して驚いて飛んで行った。
至福のひとときを邪魔しちゃったかなと
申し訳なくなった。
大好きな物と大好きな場所に包まれてる時
大好きな言葉にも包んでもらおうと
大好きな漫画の一言を小声で言う。
"Good Midnight!"
まだ真昼なのに夜とか
全然あってない。
けど
そんなことはどうでも良くて
ただ好きなことを好きなだけしていたかった。
それだけ。