隠すものは選んだ方がいい。
好きなお菓子や
宝物を隠すのは別にいい。
でも生き物は隠したらだめ。
大雨の日。
傘が意味ないくらい
風も吹いてた。
子猫の鳴き声が聞こえて、
ベンチの下を見た。
黒猫がいて、
すごく震えてた。
家に連れて帰ったけど
母は猫アレルギーだから、
押し入れに隠した。
晩ご飯を食べて
すぐ眠くなったから寝てしまった。
起きてからもずっと
他のことに精一杯で
子猫のことなんか忘れてた。
何ヶ月か経った頃、
押し入れを開けた時に見たのは
子猫の悲しい骨だった。
押し入れの内側には
爪で引っ掻いた後がいくつもあって
申し訳なかった。
私が拾ったばっかりに、
忘れっぽいばっかりに、
子猫はこの世からいなくなった。
泣くにも泣けず、
晩ご飯ができたと呼ばれた。
今日の晩ご飯はとんかつだったけど、
なぜか猫の肉に見えて、
一口食べると涙が溢れた。
母は理由を聞かずに背中をさすってくれた。
こういう人だ。
すぐ忘れると思う。
でも
化けてでもいいから
出てきて欲しいと
謝りたいと思った。
"Good Midnight!"
数日後にはもう
子猫のことなんか忘れていた。
名前もつけてなかったし
思い出なんかなかったからだと思う。
秋風が寒い今日。
ふぅ〜っと飛ばしたシャボン玉は
すぐそこで割れてしまった。
ケンタッキーの骨付きを取り出し、
豪快にかぶりつく。
シャボン玉もこの骨くらい
強かったらいいのになぁと
空を見上げながら思った。
すぅーっと息を吸う。
冷たい空気が鼻を通り
肺に入ってくる。
少し目を閉じて開ければ
もうそこは夜。
さっきよりも肌寒くて、
暗くて、
月が綺麗。
遠くの方では
建物の明かりが
船の提灯の明かりみたいに
キラキラ光っている。
シャボン玉を飛ばす前、
テスターで付けたハンドクリームの匂いが
まだ手の甲に残っていて
甘いものを食べてる気分になる。
ありがとうとか、
命の恩人だとか、
言われても
中身がなかったら
結局離れていくものだと
急に思いついた。
今日はなんだか
音楽を聴く気になれない。
イヤホンは
こういう音楽を聴かない時でも
持っているだけで安心する。
びっくりドンキーに入って
フライドポテトのスパイシー味を頼む。
前まで辛そうだと思ってたけど、
コンソメ味みたいで美味しい。
最初は熱いから
ケチャップを付けて食べる。
味に飽きてきた頃には
もう冷めてるから
そのままの味を存分に楽しむ。
"Good Midnight!"
酔っ払ったみたいに
ふらついた足取りで
家まで帰る。
途中、
男女が口喧嘩してるのを見かけた。
秋風の悪戯かな。
紅色のリップを塗り、
丈が足首より少し上の
歩きやすいドレスを着て、
お城の舞踏会へ向かう。
と言っても、
私は踊りを楽しみに来たのでは無い。
銀髪の少女を連れ去るように言われたのだ。
まずは少女に近づいても怪しまれないよう、
仲をそこそこ深めることにした。
"Shall we dance?"
と言って少女と踊り、
そこから雑談などで
馬が合うように仕向けた。
あまり一緒に居すぎると
良くない気がしたので
フラフラ歩いて
適当な人と踊った。
途中、
黒髪の少女が
別の部屋へ移動するのが見えたが、
頭の片隅に置いておいた。
そして20時頃、
銀髪の少女の飲み物に
あらかじめ睡眠薬を溶かしておいた
白く濁った液体を入れた。
直後、
後ろから青銀髪の少女が
銀髪の少女の手を掴んで
庭へ連れていった。
追いかけようとすると、
ちょっと待ってくださる?
と、
黒髪の少女に引き止められた。
別の部屋へ連れられ、
アナタ、銀髪の子の飲み物に何かしたでしょう。
流石に不自然過ぎたか。
ここら辺の人だと
気づくのもよくわかる。
だが黒髪の少女は
戦闘力が低そうだ。
このまま逃げることもできる。
選択肢がありすぎて気が抜けた。
…何も言わないのね。
銀髪の子ね、私の知り合いなのよ。
聞いてて心地よいこの少女の喋り方。
私は黙秘を続けた。
まあいいわ。
今度しっかり聞くから
また会いましょう。
来るわけない。
だって私は
青銀髪の少女と別れた銀髪の少女を
直接眠らせ連れ去った。
連れ去るように言った人に引き渡し、
何ヶ月か監禁すると言われたので、
銀髪の少女に変装をして
予定をこなした。
毎週舞踏会へ通っていたのは
正直驚いたが
それ以外はまあ大丈夫だった。
ウィッグを外し
寝る前のこの時間が
1番私だと思いながら
眠りについた。
"Good Midnight!"
あははっ。
殺人が起きて
こういうテンションのやつは
大体変人か黒幕。
スリル満点!
ってジェットコースターくらいで言ってるやつは
大体終盤で覚醒する。
夜は目が見えにくくて…
簡単に弱点を教えちゃうやつは
大体いいように使われる。
ちょっと寝なかったくらいで
12時間も寝るやつは
大体序盤で死ぬ。
感が鋭くなくて
俊敏性もない私は
多分最初に殺す側になって
無様に返り討ちにされる。
でも自分の体に爆弾を付けてて
道ずれにする。
誰か一緒じゃなきゃ寂しいもんね。
こないだクリアしたゲームの影響か、
私の頭の中はこんな感じだ。
とりあえず推しは死んで欲しくない。
できれば最初に返り討ちにされずに
最後まで推しを守りたい。
ゲームでは推しが3人いたが、
1人は感電死、
1人は失血死、
1人は自爆死。
このうち2人は他殺だ。
その人を頭の中で殺して
2人を生かすことができる。
しかしもう1人は救えない。
なぜならそのゲームの黒幕だったから。
自爆しか方法がなかった。
なら過去も含めて黒幕を肩代わりしたらどうだろう。
怒りが押さえつけられないけど、
推しは生かして帰すよ的な。
待ってそれ超いい!と、
1人部屋で盛り上がった。
そしたら急に
またゲームを一からプレイしたくなって、
スマホを開いた。
"Good Midnight!"
からあげ弁当を食べながら眺める推しは
最高だった。
直後に尊敬していた人に
睡眠薬で眠らされ、
感電死する推しが映った。
車とぶつかりそうになって
死にかけた今日、
直後は怖かった。
死を恐れた。
でも段々、
死なせてくれよなんて思ってきた。
みんな見えない翼を持ってる。
大きさは違うけど
ちゃんと飛べてる。
気づかないだけで
ちゃんと羽ばたいてる。
私はどうか。
大きさは普通だけど使えない。
自分のものじゃないみたいな感じ。
翼って
夢中になれて
自分を高めることができるものがある
証明になるんだと思う。
だから私は
夢中にはなれるけど
高めれないものなんだ。
する事する事全部が
他と変わらないというか、
そこから何も広げられないというか。
そんな自分を嫌ったり、
人と比べたり。
勝手に生まれてくる思考は
泣きたくなるほど惨めで。
だから今日は
翼を気にしないように過ごしていたんだ。
レンガの道の右側を歩いて、
チェック柄の傘で落ち葉を受け止めて、
少し冬っぽさを感じてくる空気を
肺いっぱいに吸って。
そんなちょっとの間に
曲がり角から車は来ていて、
あと数cm前に行っていたら
吹っ飛んでいたかもしれないほど
車はスピードが出ていた。
今日くらいは
お気に入りの服を着て
幸せに過ごそうと思っていたのに。
ドクドクと早くなる鼓動に合わせて
早歩きで家に帰る。
布団の上では愛犬が寝ていて、
いびきをかいていた。
背中をそっと触ると
暖かくて
ポロポロと涙がこぼれ落ちてきた。
それから夜まで
ずーっと愛犬の隣にいたんだ。
"Good Midnight!"
飛べない翼はただの飾り。
まだそう思っているこの少女は
車とぶつかりそうになった時
翼が守ってくれたこと、
前から危ない時は
翼が少女を包み込んでいたことを、
これから先も知らないまま。