晴れた日に
ベランダに机を出して
パンと木の実を食べるの。
犬とか猫とか狐とか
みんな仲良くしてくれて、
夜も満月を見ながら
くつろぐの。
私は私の日常を
たまに手紙に書いて出してる。
どこに届いてるのかは分からないけど、
喋るカモメがいつも届けてくれる。
今日も書いて出したけど、
時々ある、体が疼く症状が出てきた。
心臓がドクドクと鼓動を早くする。
気がつくと私は
いつものポストの前にいた。
喋るカモメも目の前にいる。
あー、あの新人、
後ろ振り返っちゃったか。
まあ今日ハロウィンだし、
ちょうどいいんじゃない?
なんて、
よく分からないことを言っている。
なにを、いってるの?
なんだか上手く喋れない。
まるで口がいつもより大きいかのように。
何って、キミのことを言っているんだよ。
わかるよ。
どのネブラスオオカミもそういうんだ。
おおかみ?わたしが…?
そうさ。
全く、キミも他のオオカミも
自分の理想郷を手紙に書いて
出すのをやめないから、
ボク超頑張ってるんだけど?
人間は本来、獣族が見えてはいけないからね。
手紙を見て振り返ると
獣族が月を見た時のように
変身してしまうんだよ。
ほら、キミ今オオカミだろ?
わたし、いかなきゃ、いけない、の?
うん。
お腹が空いてきたでしょ?
せっかくハロウィンだし、
トリックオアトリックとでも言って
食べてきちゃいなよ。
ハッとした。
いつの間にか私は、
知らない建物の中にいて
知らない人がいて
私は口を大きく開けている。
なんでまだ食べてないんだっけ。
あ、そうか。
喋りにくい口を少し閉じて
目の前の人にこう言う。
"トリックオアトリック"
やっぱりあの人やらかしましたか。
ワタクシちゃんと注意しましたからね?
ほんとに
掃除するの誰だと思ってるんですかねえ。
ま、今日は帰らせてもらいますかね。
では、
3日前に入ったばかりの新人さんに
ご冥福をお祈りして。
"Good Midnight!"
どうしようもないくらい
悲しい日も
もうこれ以上ないくらい
笑った日も
懐かしく思うことができたのなら
それは確かに大切な日々だったって
言えるんだ。
どの日も私で、
どんな気分でも私。
お腹は空くし、
転ぶ時もあるし、
登れない壁もあるし。
あー、
お腹が減ってたらいけないね。
おっと、
すぐ近くに電話が!
そんな時は迷わず
ピザを注文!
トマトソースたっぷりの
マルゲリータを丸々一枚食べる。
食べ物なんて全部同じ、
お腹に入ればなんでもいいと思ってた。
でもピザを知っちゃった!
ピザを食べてる時間は
楽しくてしょうがないの!
パスタ?ラーメン?
なにそれピザが1番!
8等分にカットしていったら
人生のバランスが取れてる感じ。
ひとくち食べたら
もう手が止まらない。
ピザパーティーもいいかもね。
美味しいものを
シェア、シェア、シェア。
ほら、私もうワクワクしてきた。
だって今日は
週の中間だよ?
こんなの食べるしかないでしょう?
ストレスなんて
8等分にして
食べてやればいいのさ!
"Good Midnight!"
ドミノピザ、ピザハット、ピザーラ、
沢山のピザ屋さんのチラシを抱えながら
受話器を手に取る。
さぁ、次はどのピザを食べようか。
むかしむかし
ある所に
10月29.5日に迷い込んだ
少女がいました。
真っ赤な着物のワンピースを着た少女は
底が高い草履を
カラン、カラン、と鳴らしながら
暗闇の中を歩いています。
すると前から
薄紫色の着物を着た
綺麗な女性が歩いてきました。
おや、お嬢さん
もしかして招かれたのかい?
さっきまでもう少し遠くにいた女性は
気がつくと少女の前に立っていました。
驚きを隠せない少女は
ビクビクと震えています。
怖がらないでいいんだよ。
私は優しい魔女なのさ。
招かれた者に
いい呪いをかけるのだよ。
と、
少女の背中を叩くと、
さっきまでの震えが
嘘のように無くなりました。
少し耳が変わったり、
羽が生えたりするけど
別に構わないよね?
お嬢さん、こういうファンタジー
好きみたいだし。
女性がふっと人差し指を一振りすると
少女は白い光に吸い込まれていきました。
これは少女が
後に平安と呼ばれる時代から
平成や令和を生きる
もう一つの物語の始まり。
気がつくと少女は
ひんやりとした
家の中にいました。
両手を広げると
腕に羽が何枚も着いていて、
頭は羽毛のようにふわふわ。
耳も羽です。
そう、
フクロウに似た人になりました。
どうやらこの家からは
出られないようで、
部屋の中には雑貨がいくつもありました。
そこにはノートも置いており、
中身は外に出なくても
勝手に人が来るように
店を開けと書いてありました。
おそらく女性が書いたのでしょう。
それと
人間関係が記されていました。
スマートフォンも置かれており、
LINEでは何人かに
店を開いたと報告してありました。
これは客が来てしまうと思った少女は
雑貨屋を開き、
隅では得意な料理を活かした
小さなカフェを営業しました。
詳細を何人かに送り、
カウンターから外を見ます。
店に入ってくる客は
耳や羽が見えないようで、
少女から恥ずかしさが消えました。
女性が仕組んだのでしょう。
全員顔見知りのようでした。
なんでも、
少女の顔はフクロウに似ているので
覚えやすいんだとか。
客が帰る際
少女は決まってこう言います。
"Good Midnight!"
人通りがほとんどない路地裏、
雑貨屋の隣にある小さな建物。
暗がりの中で1つの灯りが
今日も優しく光る。
ワタクシはここで
幸せを届けるオシゴトをしております。
なあに、
オシゴト内容はカンタンです。
上のパイプから落ちてくる手紙の中身通りに
物を包んでいけばいいだけです。
物は隣の雑貨屋さんに
全て揃っています。
制服の指定はありますが、
髪色は自由です。
たまに文字化けした手紙が落ちてきます。
その時はすぐに
ワタクシを呼んでください。
決して、
その手紙を見た後に振り返らないでください。
え?
振り返ったらどうなるのか
気になるのですか?
漫画やアニメだと
幽霊が出てきて
呪われる…。
みたいなことになりますが、
ここには怪物も幽霊もいません。
とても大きなオオカミが来て
食べられてしまいます。
それはそれは大きくて、
この建物の天上に
ギリギリ届かないくらいなのですが、
見ての通り
ここの床と天井までの距離は
1500mほどです。
ええ、もちろん。
食べられた方もいらっしゃいますよ。
なのでお気をつけくださいね。
最後に、
お帰りの際は
絶対に「夜の鳥」を利用してください。
はい、あの迷子列車です。
オオカミが近くにいた時、
家を知られてしまうと
何かと面倒なので。
それではお気をつけてお帰りください。
また明日、お待ちしております。
"Good Midnight!"
苦しかった。
毎日が海の中みたいで
息が吸えなくて、
どんどん減っていって。
魚たちが後ろを泳いでいく、
そのちょっとした波で
私は遠く流される。
ヒレもボロボロで
泳ぐことさえ出来なくて沈んで。
私は鮭みたいに
根気強くないから。
私はカジキみたいに
上手く泳げないから。
何もないのに
涙だけが零れていって
涙だけで溺れてしまうから。
紅茶の香りも
本の内容も
私には届かないの。
音楽が私を埋めてくれるの。
と、
柄にもない事を言ってみた。
後から恥ずかしくなってきたけど、
まー、すぐ忘れるし。
つい昨日読んだ漫画の絵が
女の子が電車に乗ってたら
海が押し寄せて
だんだん溺れるみたいな感じの絵で、
この女の子は
どんな事を思ってるんだろうとか、
この一角だけで
前後の物語を創るとしたら
どんなのになるかなーとか
考えてたら
音読したくなってきて。
でもこういうの、私結構好き。
深海に沈んでいく
何も出来ない魚。
爪を磨きながら考えた物語は
布と布を並縫いで合わせたような
ちょっとガタガタしてて
すぐ解けそうな話だ。
ストックしてるフルーチェの箱の
数を数えながら、
スピーカーをつけて
音楽をかける。
抹茶をコップに入れて
テレビをつけようと思ったけど
やめた。
暇だなぁと思うけど
耳をスピーカーに傾け続けた。
"Good Midnight!"
ケーキもお菓子もない
今日だけは
音楽に溺れていたくて。