久しぶりの実家は
あまりに退屈だった。
ド田舎にある私の生まれ育った家。
そんなに思い出は残ってない。
多分取り壊されると言われても
ふーん。で終わるだろう。
でも私は
この街が好きだ。
ショッピングモールはないが、
喫茶店くらいならある。
レトロな雰囲気のこの喫茶店は
夕焼けがよく見える。
たまに「たそがれどきだなぁ」
なんて言ってみたりして。
こんな洒落た言葉似合わないけどね。
今日は母の病院の付き添い。
ちょっと成人した風に話してたけど、
実はまだ16ね。
久しぶりの実家って言うのは、
いつも喫茶店寄ってたから
夕方家にいるのが久しぶりってことね。
ちょっとややこしい?
まあいいや。
病院の入ってすぐの靴箱の横。
「ご自由にお持ち帰りください。」
と書かれた紙と共に置いてあるのは
一輪の花を飾る用の小さい瓶。
ぐにゃぐにゃとウェーブしていて
とても綺麗だ。
ここの瓶はいつも1つ持って帰っている。
スズランを飾るんだ。
カップが逆さになったみたいな花。
お気に入りの花。
その瓶に
"Good Midnight!"
って書いたラベルを貼って
自分の部屋でずっと眺めて。
時々風が窓から入ってくる。
もう10月か〜。
もみじの葉が散るまで
あとどのくらいだろうか。
昔からパズルが苦手だった。
それでもパズルをし続けるのは、
飾った時に綺麗だから。
大してピースが多くないパズルを飾るのは
すごく楽しい。
今のお気に入りは
手前でイルカが泳いでいて、
後ろに遊園地と月があるパズル。
それは外側が深い青色で
内側が金色の額縁に入れてある。
このパズル、
電気を消したら光るんだ。
今日ついに立体パズルを買ってみた。
「魔女の宅急便」のジジを買ったのだけど、
中々難しい。
ネジとかも使うみたいで
もう頭がハテナだった。
どれも同じピースに見えた。
でも辞めない。
何かを続けて、
何かにハマって、
夢中になっていたい。
そうだ。
パズルを始めたきっかけは
人間関係に似てたからだ。
相性バッチリだったらハマるし、
全然違うなってなったらハマらない。
複雑な形をしてて
違うなって思った人とも
友達の友達の友達的な感じで
いつの間にか繋がってたり。
全部1つになる。
パズルをしてる間は
難しい人間関係も
手のひらの上で
まとめることができる。
きっと明日も
明後日も
来年も
20年後も
ずっとパズルが好き。
え?
冒頭で苦手って言ってたのに
なんで好きなのかって?
当たり前のことだと思っちゃうかもだけど、
苦手と嫌いは違うからね。
私は苦手でも好きになりたい。
好きになれるように努力するよ。
ま、立体パズルは難しすぎだけどね。
ちょいとアイス休憩。
ガラッと開けた冷凍庫から
ピノを出してパクッとひと口。
う〜ん、
"Good Midnight!"
この言葉、
今の空と
さっきのジジにピッタリ。
メガネがないと
なんでもぼやけて見えないのに
星だけは綺麗に見えた気がした。
服なんて気にしてなかったから、
今日はいつもより引き締まっている。
星が描かれた靴に一目惚れして
買ったはいいものの、
家から出ることなんて滅多にないので
困っていた。
そんな時バイト募集中のポスターが
いっぱい貼ってあるところを見つけた。
その中にあった
ポップアップ写真というものに目を惹かれた。
なんでも、
個性的な着物を作っている人が
ポップアップの写真を撮るために
誰かに着物を着てもらい
和風な部屋や道を歩いてもらいたいようだ。
場所に着くまでは
私服OKと書かれていたので、
星の靴とパーカーで
カジュアルな格好をして行った。
グラデーションが綺麗な
青色の着物を着せてもらい、
まずは道を適当に歩いた。
内股で歩くのがすごく大変だった。
次に部屋でお茶を飲んでいるところ、
和菓子を出しているところなど、
全て終わり
依頼人がお金を取りに行った。
静寂に包まれた部屋で
鳥が鳴いているのを聞いて、
バイト募集、今度からしっかり見よ。
と思った。
お金を受け取り、
家に帰る途中
ポップアップってなんだったかなと
スマホを開き調べた。
写真や文章の書かれた
商品の近くに置いてあるもののことだそうだ。
スクロールしていると
なんだか変なとこを押してしまい、
ある漫画のウィキペディアに飛ばされた。
よく見ると表紙が綺麗だったので、
そのページに居座った。
"Good Midnight!"
と、
ある人物が言うのだが、
その人と仲のいい人が考えた挨拶だった。
でもある人物はその挨拶がダサいと言い、
変えてくれと頼んでいた。
だが、私はお洒落でいいなぁと
ため息をついていた。
読み終わる頃には
私の中での考えは前とは少し変わった。
今度はこの靴とパーカーで
どこへ出かけようか。
この1回きりでは割に合わない。
もっと冒険に連れて行ってやるか。
この漫画の人たちみたいに。
夢を見てたの。
お気に入りの服を着て
出かける私の夢。
もうずっとここにいたいって思った。
でも夢で、
起きたら自分の部屋で、
散らかった部屋が目を覚まさせてくれる。
外が暗いから深夜なのだろう。
そういえばお風呂入ったっけ。
晩ご飯食べた……?
よくわからなくなってきて
スマホの明かりをつける。
あっ、まだ18時だ。
最近風も冷たいし、
18時でも外は暗い。
ふと横を見ると
絵を描いている途中だったことを思い出した。
机は描く場所がないから、
ベッドの上で。
その女の子の絵は
夢の中で私が着てたような服を着てる。
別れ際に
主人公に
全てを諦めたような
意味深な笑みを浮かべる
重要キャラって感じの表情。
絵ってのは
当たり前だけど
描く人の画力で
可愛くも、美しくも、かっこよくもなれる。
だから私、
この子をもうちょっと儚くしたい。
色白で触ったら消えちゃいそうな子。
起きたらやる事山積みで
死ぬまでこんな感じだろうと思った。
寒いくらいクーラーつけて
ちょっと季節外れなスイカを食べる。
食べながらやる事やってんだ?って。
いやいや、漫画読んでる。
"Good Midnight!"
ってのが心に刺さるのよね。
普通に聞いたら
心に刺さるとこなんて1ミリもない
言葉だけど。
絵と一緒だから刺さる。
意味がある。
多分漫画家さんって
本当に絵を描くのが好きな人なんだなって、
わかっちゃう。
わかりたくないのになぁ。
私と全然違うんだもん。
ま、いいや。
漫画を本棚に戻し、
もう一度夢の中へ。
はぁ〜。
今日はついてない。
まさか抹茶パウダーが売り切れなんて……。
アイスクリーム屋さんも定休日だったし、
クレープ買ったら
下から全部落ちてったし。
通り雨は私の涙をかっさらった。
それは嬉しいけど
服はびっしょり。
3年ほど文通している人への手紙も
滲んで書きなぐりみたいな字になったし。
まあいいか。と出したのだけど、
裏側をメモ代わりに使ってたことを
今思い出してしまった。
しかも曲名をメモしていて
「にこにこしてたい。」
って書いてた気がする。
うおぉぉおぉぉおおぉ!!
ポストの前で頭を抱え叫ぶ変人の完成だ。
滲んで変な誤解を生まなければいいのだが…。
靴も濡れていて
重くて足が上がらない。
もう帰ったら寝よ。
倒れ込むように寝た翌日、
文通している人から
速達で手紙が届いた。
内容はいつも通りだったが、
よく見ると
暖かい言葉が使われている。
最後には
"Good Midnight!"
と書いてあった。
メモに気づかれなくてよかったぁ〜。
ほっとしたのもつかの間、
力が緩み
左手に持っていたスマホが
足へと落ちる。
イ゙ッダア゙ア゙ア゙ア゙ア゙。
もしかして今年のおみくじ大凶引いたから?
あと半分で今年終わるってぇぇえ!!
1人家でキレていた今日この頃。