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7/4/2024, 12:14:26 PM

チャリンッ。ガランガラン。パンパンッ
「ひいちゃんが不幸になりますように」
パン
45°のおじぎを済ませ10段ほどの階段を駆け下り、したにとめてある自転車に飛び乗る。待ち合わせ場所まで田んぼだらけのあぜ道を急ぐ。
「おーい!!」遠くの方に女の子が見える。やわらかそうな黒髪を2つに結び無邪気な顔であなたは手を振っていた。「ごめーん!!!ひいちゃんお待たせー!!」自転車を止めた途端に吹き出す汗を拭いながらあなたに駆け寄る。「何してたの?」「ちょっとお母さんのてつだい!」「ふーん」「ね、ね、早く駄菓子屋行こ!わたしいそいだから喉乾いた!」自転車に乗りなおし、2人で肩を並べおしゃべりに花を咲かせながら遊び場への道を走る。なんでもない私の大切な大切な時間。ずっとずっと終わらせたくないすてきな時間。

「いった!」「わ、だいじょぶ?」ひいちゃんが石につまずいて自転車ごと倒れこんでしまった。「えへへ…ごめんごめん…」ひぃちゃんは笑ってなんでもない顔をして見せているが膝を擦りむき血がでてしまっている。「大丈夫じゃないよー!はい絆創膏!私貼ったげる!」しゃがみこみ視線を合わせる。傷を見る。「ありがと。みきちゃんはすごいね。いつも色々持ってて、色々できて。」封を開ける。紙を剥がす。ひいちゃんの膝に触れる。「それはひぃちゃんがいっつもドジするからでしょ。私はそれが心配なだけ!」ホコリを落とす。ティシュで血を吸い取る。「そうだけど、でもこんなにしてくれるのみきちゃんくらいだよ」絆創膏をはる。顔を上げる。少し照れたようにはにかむあなたと目が合う。「そんなこと言ってもこやって手当してあげてるのがおあいこにはならないんだからね」目を逸らす。「うん。ありがと」あなたはいつも素直に。真っ直ぐ私に言葉を伝えてくれる。嬉しくてこそばゆくて。太陽の暑さと混じってどうにかなっちゃいそうになる。「じゃあ行こっか」立ち上がり自転車をこぎだすあなた。「あ、待ってよー!おわったらすーぐ調子のるんだからー!」置いてかれないよう急ぐふりをしてあなたにバレないよう大事にティシュを握りしめポケットにいれた。

ひぃちゃんはよく怪我をする。ちっちゃい時も転んだりどこかにぶつけたり。その度泣いて私を呼んだ。なにもできなかったころは痛いの痛いのとんでいけ!と誤魔化したり、痛みが引くまで手を繋いだりしたよね。今はあなたをちゃんとお手当てできる。あなたの体に私が貼った絆創膏があり、あなたの血液がついたティシュが私の手元に残る。私はそれがかけがえのない宝物なんだ。あなたが怪我をする。あなたが私を必要としてくれる。あなたからの宝物か増える。ずっとずっともっと。もっと。これが続けば。これができれば。
だからね。今日もお願いするんだ。あなたができるだけ怪我するように。あなたができるだけたくさん血をだすように。

チャリンッ。ガランガラン。パンパンッ

6/28/2024, 2:58:59 PM

かき氷を食べた。冷たくて甘い。じゃりっともシャクっともとれる手回し特有の荒い氷の食感と、昔から変わらないどういう意味かも分からない作り物の青い南国の味。さっきまでじっとりと体を濡らしていた汗はひき、お腹から足先に向けて冷えていく。少し寒いくらいだ。
控えめなシロップの色を含んだ氷は粒が大きいからか光を乱反射させ水晶のようにキラキラと輝く。なぜか、今まで見たかき氷の中で1番綺麗だと思った。ノスタルジックな要素は何ひとつとしてこの場にはないのに。愛するひとも、汗水を垂らした青春も、線香の匂いがする縁側でもない。仕事終わりの夕方。生ぬるい空気がまわる台所のダイニングテーブルの上だ。そんなはずはないだろう。もっと楽しくて素敵な思い出付きのかき氷があったはずだ。家族と行った花火大会、夏休みに遊びに行ったおばあちゃん家、喫茶店の期間限定メニュー……
じわりと暑さの残る思い出の中にあるかき氷はどれもシロップがかかりすぎて濁って氷が沈んでいる。だいぶ溶けて諦めて付属のストロー型のスプーンですすったり、全部の色が混ざってほうじ茶のような色になっていたり……そう思うと私はかき氷の"氷"側を楽しめていなかったのかもしれない。氷は体を冷やすためのオマケで甘いシロップやトッピングにのみ心を踊らせる幼稚で可愛い感性の持ち主だったのだろう。
小さい頃の方が空は青く感じた。ショッピングモールは賑やかでワクワクした。歳をとる度視界に入るそういうもの達が色褪せて感じるとなんだか切なく苦しい。今のうちに焼き付けておくべきかと学生の頃は覚えられるはずもない広大な空を無意味に眺めていた。
そんな不安とは裏腹に社会人になって初めてかき氷の輝きに気づけた。不思議で仕方なかったが、長い時間生きたから、色んなものを見て感じて見方や意味を知ることができたから、感じ方がやっと大人になったんだ。そう思えてちょっと、まだ生きてて良かったなと。溶けきらないうちに食べ終えられた最後の透明なひと口をすくった。

6/27/2024, 11:01:38 AM

ここでは無いどこかに行きたい。それはここで無ければどこだっていい。と言いたいところだが人には少なからず行きたくない場所がある。そういう所は避けたい。そう考えるとどこでもいい、なんでもいい、という発言は自分の望みを考えるのに最適な問いかけかもしれない。例えば夢がない人がいる。そういう人にどんな職業でもいいんだね?と再確認をとれば、いやこれだけは嫌だ!!というものが少なからずでてくるはずだ。そこから少しづつ選択肢を絞るというのはやりたいことを探すよりも少し難易度が低く感じる。旅行はどうだろう。どこでもいい。あーでも寒いとこは嫌だな。人混みが多いとしんどいなぁ、と考えると自然と行くところは絞られてくる。……多少の妥協は必要だが。
やりたくない、見たくない、聞きたくない……否定というエネルギーはマイナスなように思えて優柔不断な人間には有用なのかもしれない。私はよく昼食のメニューを絞るのにとりあえずこれだけは嫌だな、からだす。そうするとわりと絞れてくる。自分のなかのレパートリーが少ないのもあるが。
友人と何かを決めなければならないという時にもどうだろう。お互いのこれは嫌!を最低限提示しておいてそれを避けて選択肢や案を出し合えばそこまで乗り気じゃなくてもま、いっか。行ってみたら案外楽しかったりして?と妥協しやすくなる。気まずい感じも無くなる。
ここで気をつけて欲しいのはこの考え方は否定からはいるのではなく、自分の否定を大事にする。という考え方だ。何でもかんでもいや、これってこうだよね?と否定からはいるだるいやつのようになるのではなく直感的な自分の声に従うのが重要だ。
ここではないどこかに行きたい。さて、君が最も行きたくないところはどこだろう?そこからきっといい感じの場所が見つかるはずさ。