私が忘れたくても忘れられないものそれは恥ずかしかった出来事
夜中にやっと仕事が終わった。終電に乗り、ほっと息を吐いた。窓の方に目を向けると奥は真っ暗で、電車の周りはとても明るかった。電車の周りに積もった雪が照らされている。LINEを開き、母に写真を送った。それから続けて、メッセージで「電車の窓から見えた景色。」と送った。それからスマホの電源を落とし、鞄に入れた。そして、窓に頭をつけながら外を眺めていた。窓の冷たさが心地よかった。「終点、終点」という声でハッとした。どうやらもう着いたようだ。自分の体温で温くなっている窓から張り付いた頬を外し、荷物を持って電車を降りた。外は電車よりも寒かった。
彼からのLINEを見て私は喉を引きつらせる。彼に連絡先を教えた覚えがないからだ。その事実は失神しそうになるほど衝撃的であった。恐怖に圧倒され動けずいた。そこから何時間経っただろうか。チャイムがなんとはなしになった。叫びそうになる。だが今は夜中、叫んだら近所迷惑になってしまう。とても不安だ。だがこのままで放置するのも気が引ける。意を決してそこから立ち上がりインターホンの前に向かった。たった数歩のことだが一歩一歩を踏みしめるように歩いた。そしてインターホンを覗く。奴がいた。奴がいたのだ。家の住所など知るはずなどないのに。ありえない。奴は何時から私をつけていたのか。そんな私の心境など興味もないという様に奴は何度もチャイムを押してきた。だがずっとドアに張り付いているとやはり不審がられるようで隣の人が出てきた。彼も通報されるのは嫌だったようで、すぐにドアの前から離れ走っていった。私は緊張の糸がぷつっと切れ倒れてしまった。
本気の恋してみませんか
彼からそんな陳腐なセリフが出るとは思わなかった。
だがそんなセリフとは裏腹に彼の顔は真剣そのものだった。だから思わず頷いてしまった。彼が好きかと言われれば、返答に困ってしまう。それほど曖昧な感情で頷いてしまったのだ。もう取り返しがつかない。仕方なく私はある程度付き合って彼が冷めて別れを告げたら私はそれに応じよう。そうして六ヶ月後、彼は私の思った通り別れをつげた。私もわかったと返事をしようとしたが声が出なかった。とても長い間私は彼と過ごしている内に惹かれていた様だった。だがもうよりを戻すことは叶わない。私は諦めて返事をし家に帰った。
あっけなかったな
帰り道でぼそっと呟いた。
海へ言った
怪我をした
とても膿が出た