視線の先には
視線の先には 𓃠
そのこは、暑い夏の1日のはじまり。
さっきから店前の自動販売機のよこでこっち向きにお行儀よく座っている。
目があった。
暑いから中にいれてくれとひと鳴き。
別に飲食店でもないし顔なじみの野良ちゃんはこの商店街では人気者の地域 𓃠
数店舗餌場があり、うちもそのひとつ。
うちでは、ノラちゃんであるが
正式な名はまだない。
別のところではシマとかトラとかサバとかも呼ばれているらしい、どれでも愛想よく返事をするのは、野良猫家業の手練れか?
以前、あまりに愛想が良いので飼い猫にしようとしたこ婦人がおり、まだ若猫だったノラちゃんを家に招き入れたのだが脱走、そんなことを他にも繰り返し
「飼い主はオイラが決める!」
「首輪をつけるな!」
「閉じ込めるな!」でいまのポジションにおさまったのである。
ノラちゃんが入れるように自動ドアを開けてやる。自分では入らない開けてやるとスルリと侵入だ。ひとしきり挨拶のように世間話でもしているように鳴き、カリカリを出してやるとチュールをよこせという顔をして水を飲む。
「今は、朝だからチュールはないよ」と言うと
「しかたねーな」とひと鳴きしカリカリを食べて、店内をウロウロし結局いつもの場所で朝寝二度寝につく。客が来ても素知らぬふり声をかけられ愛想鳴きの店長したたかに眠り毛づくろいをし、開店から3時間くらいしたら次の店に向かうのだが、今日は動こうとしなかった。
さすがに、今日の昼間の暑さ外に出る事が躊躇われたのだろうか、ウィンドウから外を眺めている。日差しが変わり初めて日が差し込む時間が近づいてくると、その場所を引き上げバックヤードでくつろいでいる。
「今日は1日うちにいるつもりかい?」
そう言っておやつのチュールを差し出した。
ノラちゃんは、チュールを食べてまた毛づくろいをし顔を洗った。
「おや、明日は雨かい?」と聞いてみると
こちらに目をやり
「なんのことだい?」と言うような顔をして
「知らんがな」とひと鳴きの返事。
そんなやり取りをしながら、遊ぶから相手しろとスリスリこちらも相手にされて嬉しくてモフモフフミフミマッサージ。
午後のキツーイ暑さを忘れさせるノラちゃんとの逢瀬の時間も過ぎて、我が店も賑を見せる時間帯、夕刻前の街中に客の足元をすり抜けていつの間にか出て行くのである。
今度は、何処に行くのかね~?
日が落ちて少し外も涼しくなったから
別の店にも顔出してやるかって感じかな。
明日も、おいでよ。
視線の先で風来坊のノラちゃんを見つけるのを楽しみにしている。
令和6年7月19日
心幸
私だけ
君はいつも、ひとりぼっちで部屋の片隅でうずくまってスマホっ首になっているね。外に出てもスマホは出来るし、こんな文章なら5分もあれば書けるのに。君には、おぼつかないの?
語彙力が足りないね、じっと待っているだけだから。外がどれほど暑いかも実感がない君。
そりゃあ、気持ちを表現する言葉を探すのに時間がかかるよ。
誰も来ないと判っている、来られても困る部屋の片隅で私だけ傷ついていると君は思っている。
かなり若さに思いあがり甘えている。
自分に正直に生きるなら
風に逆らって立つ覚悟を以って前を向け。
私だけと思いあがるな!
何が正しくて何が嘘なのか?
100でなければ0なのか?
左じゃなければ右なのか?
そんな二者択一しかない狭い思考でいるから
世界が白く見えたり
私だけ傷ついて
大人は判ってくれないってなるんだ。
判ってくれなくて当たり前
その人は君じゃないから
それで、私だけがなんて図々しいぞ。
昨日見た感想文の君に捧ぐ。
2024年7月19日
心幸
遠い日の記憶
大きな夕日を背中に影踏み遊びの子供のはしゃぐ声が聞こえた。
明日もきっとここで遊ぼうって約束オママゴト道具は公園の隅に置きっぱなしで帰った。
それから暫く雨の日が続いて子供たちは公園に集まらなかった、それから夏休みが始まってプールや家族旅行その公園に何時ものメンバーはなかなか集まらない、公園の隅っこに忘れ去られたちょっと隠してあるように置いてあるオママゴト道具は子供たちを待っていた、来る日も来る日も、お盆が過ぎて臨海学校も親戚の集まりもキャンプも花火大会も終わり夏休みの宿題を整理し始めるころ、子供たちの声が公園に帰って来ました。
けれど、その公園は取壊しが決まり立入禁止になっていました。夕立の雨粒がぽつりぽつりと当たりだして、子供たちは公園に背を向けて家路につきました、秋の走りの雨はそれから夏休みが終わる頃まで続きました。
明日は新学期という日、ひとりの女の子が公園に貼られた立入禁止のフェンスの前に立っていました。その女の子は昨日夢を見たのでした
置きっぱなしにしたオママゴト道具が雨に濡れていてとても寂しそうで…その小さな赤いお茶碗が「サ・ヨ・ナ・ラ」って言っていました。
女の子は朝目が覚めて、とてもとても胸が痛くてラジオ体操が終わると公園に駆けつけました
ジャンプしたりフェンスの周りをウロウロしたりして、オママゴト道具を置いた辺りを覗き見ようとしました、するとオママゴト道具が置かれていた場所に大きなショベルカーがありオママゴト道具は見えませんでした。
近所のオジサンが女の子を見つけて
「危ないから、入っちゃ駄目だよ」と注意されましたが、女の子はオママゴト道具のことが言えずに、自転車に乗って帰りました、帰り道なんだかとても悲しくなって理由もわからず涙が出て泣きながら帰りました。
すると、お父さんがその顔を見て
「また、喧嘩でもしたのか?」と聞き
「泣いて帰るなんて情けない」と言いました。
女の子は、お父さんにオママゴト道具のことを話して、その日1日しょげていました。
何か特別なオママゴト道具ではなかったけれど
また直ぐ来るから明日も遊ぶからと持ち帰らなかったオママゴト道具に夢でサヨナラを言われて寂しくなって泣きました。
夕方になってお父さんが帰って来ました。
その手にはなんと、あのオママゴト道具がありました。
女の子は嬉しくなって
「あったの?」と飛び出しました。
赤いお茶碗が3つと赤い蓋のお鍋とヤカンとスコップも3本おもちゃの、お買い物籠の中に入っていました。
工事現場のオジサンたちが、忘れ物のオママゴト道具を捨てずに置いてくれていて、持ち主が取りに来ない様子なので処分しようかと話しているところへ女の子のお父さんは現れて事情を話してそのオママゴト道具を持って帰ってくれたのでした。
オママゴト道具は綺麗に洗ってあってきちんとお買い物籠のなかに入れてありました。
「ものは大事にせなあかんぞ」
お父さんは言いました。
女の子は
「ありがとう」とお父さんとオママゴト道具さんに言ってオママゴト道具をおもちゃ箱に仕舞いました。
それから新学期が始まって秋が来て寒くなって今度はお家の中で女の子たちはオママゴト道具を使って遊びました。
遠い日の記憶のお話でした。
令和6年7月17日
心幸
空を見上げて心に浮かんだこと
「綿あめ食べたい」
そういえば、綿あめなんて何年食べていないだろうな…。
梅雨の終わりを告げるように入道雲が雷様を連れて来た。
雷雨もここ最近はゲリラで季節はどんどんなくなって行く気がする。
夏祭り、浴衣姿に花火大会の後の火薬の匂い
蛍狩り、縁側に腰掛けて蚊取り線香の匂い
どこからともなく、ホタルノヒカリ
静かな夏の宵。
あなたのいた夏が好きだった…
空を見上げて心に浮かんだあなたの背中
最後に負ぶさったのは何時だったろう?
景色はハッキリおぼえているの
浴衣姿のあなたの背中
私は金魚模様の浴衣を着ていて
下駄の鼻緒が痛かった
あれが、最後のおんぶだった。
あの日の あなたの背中が
空を見上げて心に浮かんだ
雨上がりの夏の夜
今年も もうすぐ梅雨が明けるよ
お父さん
令和6年7月16日
心幸
手を取り合って
6月の花嫁が新郎と共に司祭の前にまかりこし
祝福を受けて集まってくれた新郎新婦を祝う人々を前に誓います。
「その健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しきときも、これを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け、その命ある限り、真心を尽くすことを誓いますか?」
司祭は新郎新婦の手を重ね合わせ問います。
「アーメン」
「アーメン」
新郎新婦は手を取り合って、そう応えました。
ハレルヤ
ハレルヤ
美しい夫婦が誕生しました。
この出会いは神様が授けてくれた赤い糸に違いない、私は祝福されたのだ。
この人を逃したら、きっと後悔しかしない、真心込めてそう高らかに告げる新郎なのでありました
・・・・ つづく
終わりにしよう
「終わりにしよう」
あの「誓いますか」「誓います」の日から何夜を共にしたでしょう?数ヶ月?数週間?数日…。
彼は彼女にそう告げました。
「病んでる間も、悲しんでる間もなかったわ。
言えば、今が病めるときで、悲しみのときかしら、富めるときも、貧しきときもなかったは、だって二人で築いたものなんて何もないから、それこそ、これが間違いであったと言う証かしら…」花嫁はそう呟いて、誓いを立てた司祭の告解室で涙ながらに訴えました。
「やはり、そうでしたか。」
黙って新婦の告解を聞いていた司祭は思わずそう言いました。
そうして、こう続けます。
「良い勉強をなされました。
これこそが神からの祝福です」
「これからを誓い合う場で、これこそが誓いと思い込む浅はかさ、言った先から誓いが崩れる安っぽさ、そんなに簡単に本物は見つからないし本物にするための誓は生まれながらに本物ではなく、細石の結晶が岩になるような雨と日照りと寒い雪とを越えてなるものであり、そのために誓はあるからです」
「この、神の形示しを、どう取るかがあなたへの祝福です」
「神は、いつもここであなたのことを見守っていますよ」
「神様は、見物がお好きなのね!」
彼女はスカートの裾を翻し告解室を後にした。
「終わりにしよう」
それから巡るひと季節
「病めるときも、健やかなるときも…
誓いますか?」
「アーメン」
「アーメン」
彼女はまた誓うのでした。
「神様は見物がお好き」
2024年7月14.15日
心幸