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遠い日の記憶

大きな夕日を背中に影踏み遊びの子供のはしゃぐ声が聞こえた。

明日もきっとここで遊ぼうって約束オママゴト道具は公園の隅に置きっぱなしで帰った。

それから暫く雨の日が続いて子供たちは公園に集まらなかった、それから夏休みが始まってプールや家族旅行その公園に何時ものメンバーはなかなか集まらない、公園の隅っこに忘れ去られたちょっと隠してあるように置いてあるオママゴト道具は子供たちを待っていた、来る日も来る日も、お盆が過ぎて臨海学校も親戚の集まりもキャンプも花火大会も終わり夏休みの宿題を整理し始めるころ、子供たちの声が公園に帰って来ました。

けれど、その公園は取壊しが決まり立入禁止になっていました。夕立の雨粒がぽつりぽつりと当たりだして、子供たちは公園に背を向けて家路につきました、秋の走りの雨はそれから夏休みが終わる頃まで続きました。

明日は新学期という日、ひとりの女の子が公園に貼られた立入禁止のフェンスの前に立っていました。その女の子は昨日夢を見たのでした
置きっぱなしにしたオママゴト道具が雨に濡れていてとても寂しそうで…その小さな赤いお茶碗が「サ・ヨ・ナ・ラ」って言っていました。

女の子は朝目が覚めて、とてもとても胸が痛くてラジオ体操が終わると公園に駆けつけました
ジャンプしたりフェンスの周りをウロウロしたりして、オママゴト道具を置いた辺りを覗き見ようとしました、するとオママゴト道具が置かれていた場所に大きなショベルカーがありオママゴト道具は見えませんでした。

近所のオジサンが女の子を見つけて

「危ないから、入っちゃ駄目だよ」と注意されましたが、女の子はオママゴト道具のことが言えずに、自転車に乗って帰りました、帰り道なんだかとても悲しくなって理由もわからず涙が出て泣きながら帰りました。

すると、お父さんがその顔を見て
「また、喧嘩でもしたのか?」と聞き
「泣いて帰るなんて情けない」と言いました。

女の子は、お父さんにオママゴト道具のことを話して、その日1日しょげていました。

何か特別なオママゴト道具ではなかったけれど
また直ぐ来るから明日も遊ぶからと持ち帰らなかったオママゴト道具に夢でサヨナラを言われて寂しくなって泣きました。

夕方になってお父さんが帰って来ました。
その手にはなんと、あのオママゴト道具がありました。

女の子は嬉しくなって
「あったの?」と飛び出しました。

赤いお茶碗が3つと赤い蓋のお鍋とヤカンとスコップも3本おもちゃの、お買い物籠の中に入っていました。

工事現場のオジサンたちが、忘れ物のオママゴト道具を捨てずに置いてくれていて、持ち主が取りに来ない様子なので処分しようかと話しているところへ女の子のお父さんは現れて事情を話してそのオママゴト道具を持って帰ってくれたのでした。

オママゴト道具は綺麗に洗ってあってきちんとお買い物籠のなかに入れてありました。

「ものは大事にせなあかんぞ」

お父さんは言いました。

女の子は

「ありがとう」とお父さんとオママゴト道具さんに言ってオママゴト道具をおもちゃ箱に仕舞いました。

それから新学期が始まって秋が来て寒くなって今度はお家の中で女の子たちはオママゴト道具を使って遊びました。

遠い日の記憶のお話でした。

令和6年7月17日

心幸

7/17/2024, 4:48:12 PM