「今、思っていること」を何も考えずに書き連ねていく。
つらつら、ツラツラ、連連と文字が列を成していく。
今思ってること、感じていること、体験していること……
今この時を、生きている瞬間を切り抜いていくように書き連ねていく。
おっと、どうやらここら辺で一区切りつけないといけないようだ。
丁度いい機会だ。
少し気持ちを切り替えて、別の話をしよう。
いや、やっぱりさっきの話を続けるべきか。
悩ましい……。
───こうした全ての自分の考えが、当時の自分の一瞬が、公開日記として残されていく。
たった140字のその呟きは、金言になるか、失言になるか……今は分からないのでXとおく。
────【私の日記帳】
※内容が暗いです。
※こちらはフィクションです。自殺を促すような意思は一切ありません。命大事に生きてください。
月夜の光に照らされて、ゆらゆらと煌めくその水面が、こちらにおいでと甘く囁く。
まるで人魚の歌声のように、柔らかで魅力的な波音が、ここが私の故郷だと優しく諭してくる。
そこに行ってはならないと、砂浜が足元に絡みつき、地上に戻れと訴えてくる。
けれど、それでも───。
……母なる海でゆっくりと水の泡となりて、海の藻屑となりてこの身を終えたほうが、地上の塵芥として生きていくよりマシでは無かろうか。
この世を生きるのに、自分は不出来である。
それならば、すべてを優しく受け止めてくれる海に縋り、その身を任せてこの世を去るべきでは無かろうか。
遠い、遠い月が、目の前でその姿を揺らめかせ、妖艶にこちらにおいでと手招きをする。
今ならこの月ですら、我が手元に置けるのではと、その身を前に乗り出すと、足は宙に浮いたように軽やかになり、ザブンと大きな音がした。
月光を辿っていけばいくほど、地上よりは軽やかさが増す一方で、緩やかに体の意志と温もりが奪われていく。
地上よりも冷たい故郷は、私を抱きとめようと足を掬って、私を転がしてみせた。
私のすべてをすっぽり丸め込んで、まるで赤子が揺りかごの中で揺蕩うように、静かな波がゆっくりとこの身を揺らし、自分の元から地上へ戻ろうとする空気が泡とってなって子守歌を残していく。
寒く底の見えない深淵が私を後ろから抱きかかえ、地上の水面がそんな私を嘲笑うかのように、元いた世界の美しさやきらびやかさを照らし出す。
ああ、結局、こちらも生き辛いものであったのか───。
全てを悟った時には、一寸の光も見えず、静寂と闇だけが私の元に残った───。
─────【夜の海】
心とはどこにあるのだろうか?
心が壊れると体も壊れていくとは言うが、体の部位として、臓器として、そこにある訳ではない。
見えない不確かなモノが我々のどこかにあり、それが我々の心となり、意志となり、魂となって自身を動かす原動力となっている……ようである。
表立って見えないからこそ、推し量りにくく、それの健康状態がどうであるか、本人でさえも分かりにくいものである。
心の健康は人類で一番の難問なのかもしれない。
──────【心の健康】
ふと眩しさを感じて目を開けた。
すると昨夜閉めた筈のカーテンが既に開けられ、無作法にも窓からようようと日が差し込んできた。
朝から元気な日差しの挨拶に負け、仕方なく体を起こす。
まだ寝ぼけている体を起こそうと、大きく息を吸い込むと、空気だけでなく、香ばしい匂いが鼻孔をくすぐった。
その匂いに促され、覚醒してきた体が空腹を訴えてくる。
芳しい匂いが手招く方へと進んでいくと、心地良い一定のリズムを刻む包丁の音が聞こえてきた。
それに合わせてグツグツと鍋の煮込む音がビートを刻む一方で、フライパンの上で踊る食材がスタッカートを効かせながらクレッシェンドをかけてくる。
時々、調味料の柔らかなピチカートが、コンロが奏でる静かなトレモロに色を与え、盛り上がりが真骨頂の跳ねる食材たちを引き立たせていく。
食材の音色がデクレッシェンドをかけ始め、そっと舞台袖である皿の方へとよけられると、軽やかで楽しそうなシェフの鼻歌が聞こえてきた。
楽しく奏でられていたシンフォニーを指揮していた菜箸がコトリと置かれると、盛り付けられた料理らが堂々たる顔ぶれで朝食の献立を告げてきた。
「おはよう」
次の演目は、僕と彼女が指揮を取ることになりそうだ。
────【君の奏でる音楽】
広いつばが太陽から僕を隠し、頭に沿ってクルクルと円を描いて作った層が僕の熱を逃していく。
暑い陽射しを避けながら、向かうはまだ見ぬ新天地。
そうはさせるかと言わんばかりに、突然ぶわりと大きな突風が、僕の相棒を大空へと羽ばたかせようと息を巻いた。
そんなものに負けるかと、僕は相棒を握りしめ、逆風に向かって歩み進める。
手から伝わるごわごわとした感触が、今日もまた新しい出会いがあるのではと囁いて、僕の心をワクワクさせる。
今年もよろしくな、相棒。
この夏の記録に残す、こいつとの冒険はまだ始まったばかりだ───。
─────【麦わら帽子】