ほぼ子

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※内容が暗いです。
※こちらはフィクションです。自殺を促すような意思は一切ありません。命大事に生きてください。



月夜の光に照らされて、ゆらゆらと煌めくその水面が、こちらにおいでと甘く囁く。
まるで人魚の歌声のように、柔らかで魅力的な波音が、ここが私の故郷だと優しく諭してくる。
そこに行ってはならないと、砂浜が足元に絡みつき、地上に戻れと訴えてくる。

けれど、それでも───。

……母なる海でゆっくりと水の泡となりて、海の藻屑となりてこの身を終えたほうが、地上の塵芥として生きていくよりマシでは無かろうか。

この世を生きるのに、自分は不出来である。

それならば、すべてを優しく受け止めてくれる海に縋り、その身を任せてこの世を去るべきでは無かろうか。

遠い、遠い月が、目の前でその姿を揺らめかせ、妖艶にこちらにおいでと手招きをする。
今ならこの月ですら、我が手元に置けるのではと、その身を前に乗り出すと、足は宙に浮いたように軽やかになり、ザブンと大きな音がした。

月光を辿っていけばいくほど、地上よりは軽やかさが増す一方で、緩やかに体の意志と温もりが奪われていく。
地上よりも冷たい故郷は、私を抱きとめようと足を掬って、私を転がしてみせた。
私のすべてをすっぽり丸め込んで、まるで赤子が揺りかごの中で揺蕩うように、静かな波がゆっくりとこの身を揺らし、自分の元から地上へ戻ろうとする空気が泡とってなって子守歌を残していく。
寒く底の見えない深淵が私を後ろから抱きかかえ、地上の水面がそんな私を嘲笑うかのように、元いた世界の美しさやきらびやかさを照らし出す。

ああ、結局、こちらも生き辛いものであったのか───。

全てを悟った時には、一寸の光も見えず、静寂と闇だけが私の元に残った───。


─────【夜の海】

8/15/2024, 11:31:37 AM