ほぼ子

Open App

ふと眩しさを感じて目を開けた。
すると昨夜閉めた筈のカーテンが既に開けられ、無作法にも窓からようようと日が差し込んできた。
朝から元気な日差しの挨拶に負け、仕方なく体を起こす。
まだ寝ぼけている体を起こそうと、大きく息を吸い込むと、空気だけでなく、香ばしい匂いが鼻孔をくすぐった。
その匂いに促され、覚醒してきた体が空腹を訴えてくる。

芳しい匂いが手招く方へと進んでいくと、心地良い一定のリズムを刻む包丁の音が聞こえてきた。
それに合わせてグツグツと鍋の煮込む音がビートを刻む一方で、フライパンの上で踊る食材がスタッカートを効かせながらクレッシェンドをかけてくる。
時々、調味料の柔らかなピチカートが、コンロが奏でる静かなトレモロに色を与え、盛り上がりが真骨頂の跳ねる食材たちを引き立たせていく。
食材の音色がデクレッシェンドをかけ始め、そっと舞台袖である皿の方へとよけられると、軽やかで楽しそうなシェフの鼻歌が聞こえてきた。

楽しく奏でられていたシンフォニーを指揮していた菜箸がコトリと置かれると、盛り付けられた料理らが堂々たる顔ぶれで朝食の献立を告げてきた。

「おはよう」

次の演目は、僕と彼女が指揮を取ることになりそうだ。


────【君の奏でる音楽】

8/13/2024, 5:32:00 AM