『愛してるなら(やってくれるよ) ね?』
そんな裏に隠された意味のある言葉ですら特別で嬉しかったから。たとえただ便利に利用されているだけでも構わないと思っていたんだ。君の時間を貰って仮初の愛を対価として手に入れていたのだから。
本当は……、いや、
それはある種幸福なことだと思っていた。例えばアイドルや役者に恋をしても淡い願いは叶わないけれど、ホストやホステスからは夢を買えるように。この関係はあくまで利害関係によって成り立つ気楽なビジネスの親戚だから。
(作り物でもよかったのに)
騙してくれる気があるならそれでよかった。なのに君はそれですら出し惜しんで、バレなきゃいいって軽んじてきたんだ。さすがにひどいよね。
愛があればなんでも出来る? そうかもしれないね。愛は時に狂気にも致命傷にも形を変えるから。
だからさ、これもきっとあいだよ ね?
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「さよなら」
その人は誠実だった。
言葉を軽く扱い弄ぶことを良しとしなくて、まるで心の欠片であるかのように丁寧に空気を震わせていた。
言霊なんて表現の意味を教えてくれるような、それそのものに意思の宿る音。その振動は人に寄り添うことも叱咤激励することもときに過ちを正すこともある不可思議な力を持った響きであった。
「愛してるなんて毎日言うのキザだよねぇ」
「わかる。それしか語彙ないのかってくらい」
「言っときゃいいみたいなね」
「まぁ、実際問題嬉しいんですけど」
「そりゃあねぇ」
「言われないよりは」
「なんだかんだね」
(あぁ、いいな。"愛してる"なんて……)
思い起こしてみれば愛を囁かれたことなどない。自分が告白してそれが受け入れられて、今に至っているだけ。"好き"の一言さえ滅多なことではもらえない。
これじゃあ片想いと変わらないと思ってしまう。あの人のそばに居て時間をもらって なのにこんなにも遠い。
数時間後に迫ったデートが憂鬱になってしまうような落ち込んだ気分はなかなか晴れなくて。それでも久しぶりに会えると思えば行かないなんて選択肢は浮かびもしなくて。
「どうした? 体調悪いならまたにする?」
「全然平気だよ。ちょっと寝不足なだけ」
「嘘。……ゆっくりできるコースに変えるよ」
「ごめん。体調は平気」
心配そうな表情と額を撫でた手のひらに自分はなんて馬鹿なことを気に留めてたのだろうと思い知らされた。だってこんなにも雄弁に感情を伝えてくるのに。
「あのさ、好きだよ」
ぎゅっと互いに絡めた指先は使い古された言葉よりずっと愛を叫んでいた。
虹に顔を上げることを知った。
道端の花に目を向けるようになった。
雨音のエチュードに耳をすませはじめた。
日々の小さな発見や楽しみはすべて君が教えてくれたものだった。色あせた毎日に色を光を音を与えてくれた。
世界に溢れる何もかもに意味が楽しさが発見があると、輝いた瞳と弾んだ声がそう伝えてくるから。
けれど、だけど、それは。
君という存在があってこそだったのだと今更ながらに思い知った。君が好きだった音楽も料理も植物も君がいなければただの物体でしかないのだと。遅すぎる発見をする。
きっと君は知っていたのだと思う。自分に与えられたリミットを。それを精一杯使って楽しさを輝きを素晴らしさを教えてくれたのだと今ならわかる。それでも……
「君がいないなら……」
«ひさしぶり»
最上級生になった気分はどう? 体調は?
貴方は無理はしがちだから心配だわ。
部活の方は順調? 大会には顔を出すつもりだから頑張ってね。なんて重荷になってしまうかしら。実力は誰よりもあるから平常心で挑めばいいのよ。
私の方も新天地でなんとかやっているわ。あなたの志望校もここなのよね? 言ってくれれば案内するから声かけて頂戴ね。
P.S. 卒業式の日は花束をありがとう。一輪だけだけれど栞にして取っておいているわ。
月に一回の部活のない日の午後6時。無感情な通知が卒業してしまった大好きな先輩からの連絡を告げる。急いで内容を確認すれば先輩らしい優しく思いやりに充ちたメッセージがそこにあった。
もう使われることの無いと思っていた連絡先。それでも消せなかったその未練を見透かしたように届けられた言葉はきっと私にとって何よりの御守りになるのだろう。
それでも、その純粋な優しさが少しだけ痛かった。だってあなたの思う可愛い後輩なんてここにはいないもの。
(あの花束は……)
黄色のチューリップ·アネモネ·シオン·黄色いスイセン·ワスレナグサetc. 可憐な花に込められた想いは
マジナ
それは呪い
(こんなにも、一方通行だ)
「望みのない愛」「儚い恋·恋の苦しみ」「君を忘れない」「私のもとへ帰って」「私を忘れないで」
『神様』なんて
信じたことはなかった。
だって、そんな存在があるとしたら今の私の置かれている現状はいったいなんの冗談? それとも神様とやらにも私は嫌われているとでも言うの。とんだトラジェディ。
どちらにしても私を幸せにしてくれもしない幻想なのなら有も無も同じことだった。路肩の石よりもなお無関係な例えばそう未確認生物みたいな。
でも確かに信じたことも、いいえ、信じようとしたこともあったのだけど。どうしようもなく何かに縋り付きたくなって神頼みだなんてらしくないこともした。
なぁに? ええ、そうね。他力本願じゃ救われない。あなたの言葉は非のつけ所もない正論よ。正しくって痛くて妬ましいわ。
そうでしょ? そんなふうに何かを信じれる時点で恵まれているのだもの。悪いなんて言うつもりも責めるつもりもないけれど。でもそうね。残酷だとは思ってしまう。
だって、
カミサマ
「あなたは私を救ってくれないもの」