それは神聖な響き
リーンゴーン リーンゴーン リーンゴーン
鳴り響く祝福。過去現在未来を表す音に視線をあげる。音源を探ればそこに純白の衣装に身を包んだ花嫁と花婿の姿があった。
これからの未来を考えると銘打ったプロジェクトの顔合わせも終わり時間は13時。はるばる1時間の時をかけ来たのだからとショッピングでも楽しもうと入った駅ビルの空中連絡通路から眺めた景色は,幸せをベールで包んだようなそんな色をしていた。
それはとても幸福そうで なんだか泣きたくなるほどに眩しいと思わせる時間が流れる場所。舞い上がる花びらも流れる音楽も何もかもが彼女たちの門出を祝う。
「いいな」
そう素直に思った。結構願望など欠けらも無いけれど,誰かにこれほどまでに祝われる機会はそうそうないと感じたから。
だから,幸せを願われる彼女たちが羨ましいと思った。
"愛してるって何"
そう聞いてきたのは一番の親友だった。
自分という軸を持っていて,相手を許容する余裕もあって 努力家で真面目な。少しだけ強すぎて君なら大丈夫って言われてしまうようなそんな子。
自分が一番好き。と公言してはばからないような裏表のない性格。あなたが笑顔になってくれたら嬉しい。だから,気にしないで なんて手助けしてくれるような優しさのある子。
"それは好きとは違うの?"
まるで子供のように純粋な視線で問いかけてくるその表情は少しだけ悲しげな色をしていたような気がした。まるで大事なものを奪われそうになっている小さな子供みたいに。
彼女は頭がいいから定義だけならずっとよく知っている。それでも感情は字面だけでは理解できないのだともわかっていた。だから教えて欲しいのだとそう言っている。
彼女はとても理性的で悟っていて 助けを求めることが苦手だった。だからいつだって,感情に迷いが出れば私を頼る。そう教えたから。
"相手の為を思って 相手の幸せを願って つまらないことでも向き合える"
"それは,これとは違うの?"
ああ,なんって真面目なのだろう。辞書を引いて小説を読んで詩歌を諳んじても実感なんかできるわけがないのに。
感情を単語に分解して分析したってそこに答えなどないのに。調べて探して器械にかけて それでもわからなくて私の元に来る。
「違わないよ。だから教えて,あなたは私をどう思う?」
"愛してる"
きっと世間はこれを つまらないことだと言うのでしょう。でもこれが私にとっての幸いで紛れもない愛の形だった。
だって,私たちは '相手の為を思って 相手の幸せを願って つまらないことでも向き合える'そんな関係だもの。
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だらけ
∨
人生がどんなに "つまらないことでも" 自分の作品を読んでくれる人がいるなら気分も上々になれる。
だから,ありがとうございます
今は閉ざされて見えないアイスブルー。それを思い浮かべながらそっと目尻に触れて唇を撫でて,そうやって夢の国にいる相手の感触を好き勝手に感じてから,最後に額に唇を当てる。
「良い夢を」
数時間後 君と視線が絡む時その時にはまた他人同士。寂しくないなんて嘘でも言えやしないけれど,それが運命なのだから。
恋人が奇病にかかった。前向性健忘症 1日で 正しくは眠ってしまえば記憶がリセットされる病。なんの前触れもなくそんな症状が現れたのが2か月前。それからずっとこうして過ごすことが日課になっている。
「また明日」
本音を言えば記憶を取り戻してくれれば嬉しい。けれど,朝会って状況を伝える度に苦しげに顔を歪める君を見ているから。ただ君との毎日を楽しめるようにひとつひとつ出会い初めを繰り返す。
自己中·ナルシスト·唯我独尊·利己主義·眼中無人……
言われなくても知っていた。私が自分のためにしか生きられないことなど とうに。
自分が可愛かった。自分が大切だった。自分が好きだった。傷つきたくない正しくありたい責められたくない...... それはきっと誰もが思う普通の感情でしょう?
だから,手の届かないものは早々に諦める。責任を取れないもの。中途半端は良くないから。初めから何もしない。切れる蜘蛛の糸ほど残酷なものはないから。
"あなたのため"
なんて唾棄したいほどに嫌悪している。押し売りの親切は用をなさないの。少なくとも私にとっては。
尊重と肯定が私なり精一杯の親切だから。
誰かのためには生きれないみたい。
それでも,私の行為が誰かのためになるのなら それほど嬉しいことはないわ。そう素直に思うの。
"自由" "解放" "独り立ち"
誰も彼も笑顔で夢を語る。大海を一人飛んでゆくのだとまだ見ぬ空に思いを馳せて希望を紡ぐ。どこまでも前向きに恐れもなく一歩踏み出す。
「また会おう」
それがとても眩しくて羨ましくて,理解不能だった。
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規則は鎖ではなく道標で,指示は重荷ではなく追い風だった。自分は無力で平凡で社会は冷たく無情だと知っていた。夢は目標であって願い事ではないし,希望は想像の産物だった。
守られている恩恵は理解していた。それは今だけの特権なのだと。脅威に晒されず暮らしの保証された住処。それが囲うだけの"ゲージ"であっても構わなかった。
衣食住 + 愛
見世物でもよかった。欲しいものは正解は与えられて 自分は自分であればよかった。だから今日も鳥籠で謳う。
蝋の羽根は熱に耐えられず崩れ落ちる。ほらまたひとり。
定額退学退職解雇…… そんな話は絶え間なく。あの頃の夢を抱えたまま息を出来るのは幾人か。夢想家は悪夢と微睡むばかり。
だから今日も謳いましょう。彼等の人生を讃える詩を。彼らの夢と希望をメロディーに乗せて。物語を綴りましょう。
己の幸福を噛み締めて
テーマ : «鳥かご» 15