渚雅

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7/25/2023, 10:35:38 AM

"自由" "解放" "独り立ち"

誰も彼も笑顔で夢を語る。大海を一人飛んでゆくのだとまだ見ぬ空に思いを馳せて希望を紡ぐ。どこまでも前向きに恐れもなく一歩踏み出す。


「また会おう」

それがとても眩しくて羨ましくて,理解不能だった。


ーーーー


規則は鎖ではなく道標で,指示は重荷ではなく追い風だった。自分は無力で平凡で社会は冷たく無情だと知っていた。夢は目標であって願い事ではないし,希望は想像の産物だった。


守られている恩恵は理解していた。それは今だけの特権なのだと。脅威に晒されず暮らしの保証された住処。それが囲うだけの"ゲージ"であっても構わなかった。

衣食住 + 愛

見世物でもよかった。欲しいものは正解は与えられて 自分は自分であればよかった。だから今日も鳥籠で謳う。


蝋の羽根は熱に耐えられず崩れ落ちる。ほらまたひとり。

定額退学退職解雇…… そんな話は絶え間なく。あの頃の夢を抱えたまま息を出来るのは幾人か。夢想家は悪夢と微睡むばかり。


だから今日も謳いましょう。彼等の人生を讃える詩を。彼らの夢と希望をメロディーに乗せて。物語を綴りましょう。

己の幸福を噛み締めて



テーマ : «鳥かご» 15

7/25/2023, 6:15:10 AM

「おはよう」
「だよね〜」
「わかる」
「またね」

必要な単語はそれだけ。あとは笑顔と頷き。同意して肯定して同調して慰めて。毎日毎日そうやって時間が過ぎてゆく。

正直多分彼女のことは何も知らない。それはきっとお互い様で。ここにいる誰も何にも興味ない。ただ作られる"わ"から外されぬよう努め時を待つ。


それを"友情"とラベル付けしているの。

6/23/2023, 11:49:29 AM

「願えば叶うなんて思ってたんだ」

笑ってよ 幻想に憑かれた世間知らずの夢見の子をさ。なんて,ふっきったように笑う君は知らない顔をしていた。どこまでも整った笑みを浮かべているのに泣いているように見える表情。

それはとても悲しい顔だった。


「なんで忘れてしまうのかな?」

例えば,空が吸い込まれそうに青いとか 水面に映る景色が綺麗だとか 香る花が馨しいとか。そんな小さなことに幸せとときめきを感じて,輝いた日々で煌めく心を弾ませていたのにさ。

机の下は秘密の世界 ブランコで空を飛んで 鏡は異世界へ誘う扉 金平糖は魔法の星のかけら。いつだって素敵なおとぎ話を作り出せたのに。

淡々と感情のない声は謳うように綴る。心のこもらない賛美歌みたいに撫でる音だけは響きは心地よい。


「なんで苦しいのかな」

別に今が嫌な訳ではない。でも,自由になったはずなのに囚われてる。時間もお金も行動範囲も どれだって全て弁えた範囲で望むがままなのに。

甘美なことも容易に成せるはずなんだけれどね。なにかが足りなくて満たされない。得体の知れない焦燥が身を重くする。そんな気がしてならないんだ。

なんて安っぽいポエムみたいだったかな。そんなふうにせっかく溢れた本音を冗談にしてしまう癖はいつからだったのだろうか。心を明け渡してくれなくなったのは何故。楽しくもないのに笑うようになったのはどうして。


「なにを求めてるのかな」

きっと誰もが迷い子で 希望などは忘れてしまった。かつて抱えていた純粋さは散財されて。社会に飲み込まれてしまった。

行儀よく整列したまま灰に染まって腐り合う。それを大人になると呼ぶ。


ああ,でも。絡む視線が嘘でないのなら。
無くし物も拾いに行けるのかな。

"大丈夫だよ"なんて,胸の内の小さな子どもが教えてくれるから。

―だから,そっと 君の手を取った。



テーマ : «子供の頃は» 13

6/20/2023, 7:43:29 PM

「あなたがいたから」

感謝の意を表すはずの言葉は,口から零れ落ちた瞬間に呪いへと姿を変える。伝えられた相手を縛る鎖となり雁字搦めに縛りつける。

それくらい重い言葉に聞こえるのはどうしてなのだろうか。純粋なはずの感情がどろりと濁った粘着質の愛と名付けられた何かへと変貌を遂げるのは。


言葉には意味などない。単語の羅列はただ文字と音となり伝わるだけ。意思疎通のためのツール。だから。それが表そうとする何かを 背景を裏側を想像してはいけない。

言葉は呪縛。特に純粋で混じりけのない言の葉はそれ故に毒となりうる。心を切り裂く刃ならまだいい。傷はいつか癒えるものだから。けれど分解されずに堆積していく遅効性の劇物は致死量に達した途端 唐突に牙をむく。


「あなたのおかげで」
「あなたの」

降り積もる

その後ろに込められる無言の訴えは何。

6/18/2023, 1:15:39 PM

「落下って言えば?」
「林檎?」

ニュートン

物理選択でも,理系ですらない君は首を傾げて呟く。F=ma なんて思わず懐かしい公式を諳んじれば僅かに眉をひそめた表情と目が合った。連想するのはニュートンでも物理は眠くなるから嫌いらしい。そう言えば,読んでいる小説に知らない公式が出てきてもそのまま読み飛ばすのだと言っていたっけ。


「で それがなに?」
「いや,どうって訳でもないんだけど」

ただなんとなく君は何を思うのかなって気になっ
ただけ なんて流石に言えやしないけど。何となしに微笑んで見せれば言うほど興味はないのか追求されることも無く話は終わった。

夜の風が肌を撫でてゆく心地と無言の空間。同じ部屋の中でただ各自 時を過ごす感覚は嫌いではない。どこからか聞こえてくる虫の音色が添える夜の香り。遠くで電車の走る音がした。



「お前は?」

そう問われたのは会話が終わってから何十分もたった後。それが指すのはさっき己がした質問なのだと理解するまでに数秒を要した。

落下で連想するもの……


「アリス」

うさぎを追いかけて穴に落ちていった好奇心旺盛な女の子。帽子にケーキと時計 ティーパーティーにトランプ兵 摩訶不思議なおとぎ話のような物語

なんてちょっとメルヘンチックすぎるかな。


「ふっ」

堪えきれないように小さく吹き出したような声がした。顔を上げて暗い部屋の中 目を凝らしてみればさも可笑しそうに笑みを浮かべる姿。

瞬きを2回ほど繰り返せば軽い謝罪が落とされる。それから伸ばされた手に引き寄せられて気づけば君の腕の中に納まっていた。自分のものより低くゆっくりした鼓動を微かに感じる。


「逆だって思ったら おかしかった」

理系で現実主義な自分と 文系で夢想的な君

ああ確かに 反対。互いのイメージとは逆の言葉を想像してた。意外 なのかもしれないけれど,けどやっぱり納得出来る。違うけれど似ていて,だからこうして傍に居れる気がした。


「じゃあ 真夜中のお茶会しよう。りんご味で」

なんでもない日を特別に。内緒話のように耳元で囁かれた言葉。それは甘い蜜がたっぷり滴る赤い果実の匂いがした。

月夜の下で二人だけの秘密のティータイム。さらさらと砂が溜まっていく度にゆっくりと自覚する。落下していく赤い実は きっと恋心。




テーマ : «落下»

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