渚雅

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「願えば叶うなんて思ってたんだ」

笑ってよ 幻想に憑かれた世間知らずの夢見の子をさ。なんて,ふっきったように笑う君は知らない顔をしていた。どこまでも整った笑みを浮かべているのに泣いているように見える表情。

それはとても悲しい顔だった。


「なんで忘れてしまうのかな?」

例えば,空が吸い込まれそうに青いとか 水面に映る景色が綺麗だとか 香る花が馨しいとか。そんな小さなことに幸せとときめきを感じて,輝いた日々で煌めく心を弾ませていたのにさ。

机の下は秘密の世界 ブランコで空を飛んで 鏡は異世界へ誘う扉 金平糖は魔法の星のかけら。いつだって素敵なおとぎ話を作り出せたのに。

淡々と感情のない声は謳うように綴る。心のこもらない賛美歌みたいに撫でる音だけは響きは心地よい。


「なんで苦しいのかな」

別に今が嫌な訳ではない。でも,自由になったはずなのに囚われてる。時間もお金も行動範囲も どれだって全て弁えた範囲で望むがままなのに。

甘美なことも容易に成せるはずなんだけれどね。なにかが足りなくて満たされない。得体の知れない焦燥が身を重くする。そんな気がしてならないんだ。

なんて安っぽいポエムみたいだったかな。そんなふうにせっかく溢れた本音を冗談にしてしまう癖はいつからだったのだろうか。心を明け渡してくれなくなったのは何故。楽しくもないのに笑うようになったのはどうして。


「なにを求めてるのかな」

きっと誰もが迷い子で 希望などは忘れてしまった。かつて抱えていた純粋さは散財されて。社会に飲み込まれてしまった。

行儀よく整列したまま灰に染まって腐り合う。それを大人になると呼ぶ。


ああ,でも。絡む視線が嘘でないのなら。
無くし物も拾いに行けるのかな。

"大丈夫だよ"なんて,胸の内の小さな子どもが教えてくれるから。

―だから,そっと 君の手を取った。



テーマ : «子供の頃は» 13

6/23/2023, 11:49:29 AM