〜君の背中を追って続き〜
どうやら道が荒れていて先に進みづらく困っているらしい。彼はなんとか足の踏み場を考え進もうとしているようだったが、困っているのは誰が見ても一目瞭然だった。
これ以上は流石に見ていられず助けることにした。連日の雨で道はかなり荒れているようだったのでうちに代々伝わるアレを使うことにした。やり方はもう何度も使用しているため簡単だった。いつものように羽根を広げそこから光を飛ばす。荒れた地はあっという間に整備されていった。一面に広がる緑、無意識に歩き出してしまいそうなくらい整備された道、どこからか聞こえる小川の音、小鳥たちの音色、平穏という言葉がふさわしかった。
「よし、こんなもんかな」
一仕事を終え、天使のように羽根をぱっと広げてみた。そよ風と小鳥の鳴き声が心地よかった。その時、さっきまで困っていた彼から声をかけられた。必死に呼び止めようとする彼はあまりの急な出来事に戸惑っているようだった。私はさっきまで後をつけていたと言うわけにもいかず、隠すことにした。
「おや、こんなところでどうしたの?もしかして、迷ったとか?」
まだ状況が飲み込めていない様子だったが、時間とともに少しずつ落ち着きを取り戻しているようだった。彼は最初、黙っていたが私を凝視するようになった。どうやら背中の羽根が気になるらしく、私の質問を忘れ羽根について聞いてきた。唐突な返しにそう来たか、と思ったが彼の真剣な眼差しに応えることにした。
彼と手を繋いで羽根を広げて宙に浮かんだ。私にとってはなんてことないことだが、彼は私の一つ一つの動作に目を輝かせていた。その姿はまるでジブリ映画に出てくる男の子みたいだった。あまりに反応が新鮮であったため照れてしまいそうになった。
これが彼との出会いである
君との旅のはじまりの日だ
君と旅立つ日だ
私は一生忘れない
この出会いがなければ私は救われなかったのだから
「君と飛び立つ」
「はじめまして」の彼女視点です。
なんで泣いているの?
唐突にそう問われ思わず口を噤んでしまった
どうして涙が溢れるのかわからなくなってしまったからだ
先行きが不透明だからか、孤独感からなのか、それとも悲しいことことがあったからなのか涙は止まらなかった
目に見えないものは怖い
不安になるといつもこうだ
勝手に泣いて勝手にスッキリする
これが私なのだ
世間一般的には泣くことはマイナスなイメージだろう
でも私にとっては嫌なことを洗い流す大切な時間なのだ
泣くだけでスッキリできるのだからむしろコスパはいいはずだ
だから私はこれからも泣くんだと思う
我慢してた分、辛かった分だけ泣くんだと思う
それが私らしくいられる方法なのだから
「なぜ泣くの?と聞かれたから」
足音
それは自分が今前に進んでいる証であり、同時に何かが迫っているという不気味な存在でもある。新しい自分への象徴、ホラー映画における1つの技法といった捉え方もあるだろうか。捉え方は様々だ。
私にとって足音は自分の存在を確認する1つの手段である。しかし私は自分の足音が聞こえなくなってしまう時がある。勉学に追われ、社会に飲まれ、人に飲まれ気がつけば足音などしなくなってしまうのだ。これは一時の気の迷いや情緒だとわかっている。それでも抗えないのだ。以前に比べれば随分と感情的になったと思う。猫を被っていた頃に比べればいいことだが、まさか感情に支配されてしまう時が来るとは思わなかった。
何気ない音かもしれない
それでもここまで文章が書けるのだ
この世界は何気ない音で満ち溢れている
そして個々の音色を奏でているのだろう
たまには何気ない音に耳を傾けてみるのもいいかもしれない
「足音」
あれからどれほどの月日が流れたのだろう
あれから一度も話していない
元気でやっているのだろうか?
気にしてもどうにもならないのに脳裏をよぎる
人と話すのは楽しいし好きなのにわだかまりを感じる
これが気まずいというものなのだろうか
一度踏み出してしまえば終わることなのにそれができない
でもこのままじゃ夏は終われない
まだ終わらせたくない
どうせ終わるなら私らしく終わらせてやるさ
「終わらない夏」
「届かない……」続き
届かなかった弟の願いに対する悔しさと虚無感でいっぱいで数日間は目の前のことが手につかなかった。どうしたらあの子猫を救えたのか、同じ過ちを繰り返さないために私はこれからどうしていくべきなのか、そもそも私にあの森を管理する権利なんてあるのか、何日も何日も考えた。自己嫌悪感に苛まれ自暴自棄になった日もあった。
そんなある日、気晴らしに別の世界へ出かけた時のことだった。向こうの世界は前日まで雨だったらしく道がぬかるんでいた。道を整備しながら進んでいると前方に人影が見えた。歳は私と同じくらいだろうか、泥だらけの靴に新しいバックを背負っていた。遠くから様子を伺ってみるとどうやら思うように先に進めず困っているようだった。気がつけば私は彼の後をつけていた。
〜続く〜
「君の背中を追って」