深夜2時ころ
貴方も、私も
明日も仕事
眠りたいのに
抗えない衝動に
身を任せれば
台風が過ぎ去ったあとのように
散らかった部屋
眠ったふりをして
繋ぐ度に感じた
金属特有の冷たさを
反芻していた
冷たくて甘くて
痛かった
言えぬ思いを
フィルターに通して
不純物だと
証明される
貴方の眼鏡も
貴方の煙草も
貴方の指先も
その指輪も
目眩がするほど
綺麗であるのに
綺麗であるから
早朝には少し涼しさが訪れはじめた夏の終わり
先生の車もまだ数台しかないような時刻
自分の足音だけが廊下に響く
昨日の夜、先輩から「明日やろうよ」と連絡が来ていた
その約束のために早起きをした
自転車を漕いで乱れた前髪を少し整えてから
先輩が待つ、三年二組の誰もいない教室へ向かう
扉が全開になっている入口から中をそっと見ると
先輩は窓に背中を預けて足元を見ていた
「おはようございます」と静かに歩み寄りながら言うと
顔を上げた先輩が爽やかに笑って「おはよ」と私の目を見た
「ここ座っていいよ」「俺の席で良ければ」
そこは窓際の一番後ろの席だった
「ありがとうございます」「先輩は?」
「俺はこっち」
てっきり隣に座ると思ったのに、
先輩はいつもずるい
私が座ったすぐ前の席に座り、振り返り、背もたれで腕を組み、
私の顔を覗き込むように、にやり、とした
「この方が近い感じすんじゃん?」
ああ、本当にこの人にはかなわない。
「はい、やるよ。」
パン、と手を叩く先輩
あと30分も続かない空間。
先輩と、私の、二人きり。
言い出せなかった「お酒飲まれるんですか」
喉に詰まってそこから動かせなかった
不自然じゃない言葉なのに、飲み込んでしまった
聞いてみたい「どんな音楽聴くんですか」
もしくは貴方の運転する姿を見られた暁に
そこで流れる音楽をこの耳で確かめたい
吸ってみたい「じゃあ一瞬だけ」
そう言って、私の人生の最初で最後のたばこを
咳き込む私を見てにやりと笑う貴方の吐く煙を
そのシワひとつない真白なワイシャツからする柔軟剤の匂いを
その音が鳴ると
もう一度鏡と見つめ合って
“大丈夫”であることを確認する
そして
22:46と浮かび上がる液晶を
真っ暗にした部屋の中で視界に入れ
着信の通知を盗み見る
その瞬間が罪深く甘い
緩みそうになる口元をきゅっと結んで
暗闇の世界へと踏み入れる
階段を降りるリズムに合わせるかのように
心臓も強く脈打つ
コン、コン、と助手席の窓を鳴らす
無音の車内に座ると
頭にあたたかな手のひらが触れた
おつかれ
とだけ言って離れていく大きな手
それはいつもの出発の合図
過ぎゆく街灯の微かな光さえ
いやに反射させる薬指の金属
絶対に外さないその輪っかにさえ
救いようもないほど私の心は熱くなっていく
溶けてしまえそうなほど
溶けてしまいたいほど