早朝には少し涼しさが訪れはじめた夏の終わり
先生の車もまだ数台しかないような時刻
自分の足音だけが廊下に響く
昨日の夜、先輩から「明日やろうよ」と連絡が来ていた
その約束のために早起きをした
自転車を漕いで乱れた前髪を少し整えてから
先輩が待つ、三年二組の誰もいない教室へ向かう
扉が全開になっている入口から中をそっと見ると
先輩は窓に背中を預けて足元を見ていた
「おはようございます」と静かに歩み寄りながら言うと
顔を上げた先輩が爽やかに笑って「おはよ」と私の目を見た
「ここ座っていいよ」「俺の席で良ければ」
そこは窓際の一番後ろの席だった
「ありがとうございます」「先輩は?」
「俺はこっち」
てっきり隣に座ると思ったのに、
先輩はいつもずるい
私が座ったすぐ前の席に座り、振り返り、背もたれで腕を組み、
私の顔を覗き込むように、にやり、とした
「この方が近い感じすんじゃん?」
ああ、本当にこの人にはかなわない。
「はい、やるよ。」
パン、と手を叩く先輩
あと30分も続かない空間。
先輩と、私の、二人きり。
9/6/2025, 11:21:08 AM