雪だるま

Open App
7/28/2023, 4:06:31 AM

愛猫を亡くしてしばらく経った頃、神様が舞い降りてきて、こう言った。

「お前に神の使いを送ろう」




玄関を開けると、一匹の子猫が座っていた。先代猫とは柄も顔つきも何もかも違っていたが、それでも何処と無くヤツに似ている気がした。



やっぱり猫は神の使いだったらしい。



(神様が舞い降りてきて、こう言った)

7/27/2023, 1:48:51 AM

 都会を捨てて、森の中で暮らし始めて随分と長い月日が経った。その間、私と同じく糸に導かれてここを訪れる人が何人もいた。中には私と同じように、そのまま住み始める人もいたが、その人も先日、別の糸に導かれてここを去った。
 別れの挨拶に来たその人に、私は小さなハサミをあげた。いつか、自分の手で運命を決めるときに、必要になるかもしれないから。
 私はこれからも、ここで暮らし続けるだろう。ずっと昔、都会で一緒に暮らした彼のその後が気にならないでは無いけれど。それでも、私はここにいて、時折糸に導かれてやって来る人に、私がここに来た時のことを、面白おかしく語るのだ。

──絶望した人たちの、最後の砦となるために。糸は、絶望した人の前に現れるのだから。


(誰かのためになるならば)

7/25/2023, 11:31:37 PM


  “鳥かごの中、二羽の小鳥は仲睦まじく”



 女の部屋。枕を共にする若い男と年増の女。それを冷たくたぎった瞳でただ見る私。

─────

 一月ほど前、私のもとに男が連れられてきた。男はいかにも気の弱い、どうということのない青年であったが、彼をここまで伴ってきた親類は、ほとほと困り果てたというように、彼の精神薄弱と、それに基づく理解不能な言動を、これ見よがしに私に言って聞かせた。当の男はただ困ったように、私と親類の顔をおどおどと見比べるだけであった。男には─こういう場合にはよくあることに─神経過敏と鬱屈の所見が見られるといえば見られたが、それもとるに足らぬ程度であって、むしろ温情をかけてやればすぐに、こうして私のもとを訪ねる必要すらなくなるであろうと思われた。だが結局、私はこの男を引き受けた。親類ははなから男を厄介払いにする算段だったようで、私に多額の金を寄越すと喜び勇んで帰っていった。
 私はこのすこぶる健康で気の毒な男に、治療の名目で簡単な仕事を言いつけるようにした。男は私にどこまでも従順だった。私の家にいる狂女が、男に対してこれまでになく鮮やかな表情を見せた時でさえ─女はかつて自分を手酷く棄てた荒くれ者の面影を、この男に写していたようである─小遣いをやるから女の帯を解けと言えば、男はその通りにした。
 
 私は愛する女が若い男と一つになるのを目近で見るにつけ、至上の悦びを味わった。だが、旨味を味わい尽くした後に残るのは、身を焼く程の苦味であった。

 その日、いつものように愛をさえずりつがう二人の気付かぬうちに、私は一人激情にその身を焦がし、その愛の巣に火の手を廻した。

─────

鳥かごの中の鳥が死んでしまうと、そこにはただ限りない灰色の沈黙があるだけ。


(鳥かご)

7/23/2023, 8:56:31 PM

 野良猫の身体に花が一輪咲いている。
 見てはいけないものを見たような気がして、俺は足早にその場を後にした。







 帰宅して、妻から妊娠を告げられた。



(花咲いて)

7/21/2023, 2:29:45 AM

→すまん、思い付かなかったので別の話を。

─────
 家業を継ぐため、十数年ぶりに田舎に帰った。村の人たちは皆、俺を温かく迎え入れた。
「羊の子が帰ってきた、これでもう我々が禍に苦しめられることはない」

 昔、ガキの頃に来たきりの荒れ果てた寺の境内で、俺はただ一人その時を待つ。それが、先祖代々受け継がれている生業。長子を生贄とする代わりに、俺の家系は繁栄してきた。

 荒屋の外から、するする、という音が聞こえてくる……



 翌朝、村の者たちがかつて寺のあったあたりを見に行くと、真っ赤な花が一輪咲いていた。
「なんだ?」
「これは…失敗だな」
「いくら血筋といっても、都会にかぶれた者は所詮よそ者だな、駄目だなぁ…」
「まあまあ大丈夫だよ、次に上手くやれば、」

「「「生贄なんて、ほんとうは必要ないのだから」」」


(生業)

Next