雪だるま

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  “鳥かごの中、二羽の小鳥は仲睦まじく”



 女の部屋。枕を共にする若い男と年増の女。それを冷たくたぎった瞳でただ見る私。

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 一月ほど前、私のもとに男が連れられてきた。男はいかにも気の弱い、どうということのない青年であったが、彼をここまで伴ってきた親類は、ほとほと困り果てたというように、彼の精神薄弱と、それに基づく理解不能な言動を、これ見よがしに私に言って聞かせた。当の男はただ困ったように、私と親類の顔をおどおどと見比べるだけであった。男には─こういう場合にはよくあることに─神経過敏と鬱屈の所見が見られるといえば見られたが、それもとるに足らぬ程度であって、むしろ温情をかけてやればすぐに、こうして私のもとを訪ねる必要すらなくなるであろうと思われた。だが結局、私はこの男を引き受けた。親類ははなから男を厄介払いにする算段だったようで、私に多額の金を寄越すと喜び勇んで帰っていった。
 私はこのすこぶる健康で気の毒な男に、治療の名目で簡単な仕事を言いつけるようにした。男は私にどこまでも従順だった。私の家にいる狂女が、男に対してこれまでになく鮮やかな表情を見せた時でさえ─女はかつて自分を手酷く棄てた荒くれ者の面影を、この男に写していたようである─小遣いをやるから女の帯を解けと言えば、男はその通りにした。
 
 私は愛する女が若い男と一つになるのを目近で見るにつけ、至上の悦びを味わった。だが、旨味を味わい尽くした後に残るのは、身を焼く程の苦味であった。

 その日、いつものように愛をさえずりつがう二人の気付かぬうちに、私は一人激情にその身を焦がし、その愛の巣に火の手を廻した。

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鳥かごの中の鳥が死んでしまうと、そこにはただ限りない灰色の沈黙があるだけ。


(鳥かご)

7/25/2023, 11:31:37 PM