入道雲が見える山道のガードレールの向こう側を眺めながら隣の座席の声を聞き流す。格安バスチケットで殆ど衝動的に決めた旅行はあまり予定も決まらないままなんとなくこの辺に行ってみようという計画性のない出発で。本当はどこへ逃げたかったのだろうかなんてそんな漠然とした疑問さえ浮かびそうだ。着替えはもう少し涼しいものにすればよかったとそんな思いを乗せてバスは山間へと進んで行く。温泉まであと20分。
ここではないどこかにいけば楽園のような幸せがあるのではないか。苦悩もないただ静かな日々があるのではないか、という夢想にとらわれて逃れられない。そんな場所どこにもないのはわかっているのに。平穏は遠く幼い頃の夢のように曖昧であやふやで掴みどころのないそれを幼児のように欲しがっている。
君と最後にあった日は曇天のやけに暑い日だった。帽子の陰で時折隠れる表情がどこかスッキリとして、何かを決断したような口ぶりで。違和感に気が付かないふりを無意識にしていたのかもしれない。だって背負いきれない苦悩とかそんなもの見せられたって困ってしまう。幸せなんて与えられるほどの力があるならまず自分に使いたいぐらいだと余裕のなさが囁く。そうしていろんなことに見ないふりをするから誰からもみないふりされるんだよと去っていった君が呆れたようにおいていった言葉にも耳を塞ぎたくて仕方ない。苦しみに寄り添う君はもういない自分の苦悩と向き合いに行ってしまった。寄り添えるほど強くない、おいていかれた自分は梅雨の日を過ごしている。
あなたがいたから頑張れたと言えるような相手に出会えない人生でしたとため息とともにうつむく君に。憎たらしいアイツを見返したくて、精一杯頑張って結果が出なかった自分より、よほど良い結果を出した君に。そんな人になれるものならなりたかったよ君の。未だ未来ある君が人生を決めつけているような言葉を諦めたようにつぶやいている君の横でただ薄暗い未来に言葉もない自分。
未来がなんとなく不安で、気にもとめずに笑って見えるあなたに深く嫉妬する。その裏側の努力や苦悩が垣間見えるから。だからこそ怠惰な自分は何も言えずに鬱屈した気持ちばかりと向き合って、見習って努力でもすればいいのに、なんてずいぶんと他人事みたいな気持ちで自分を笑ったってやる気なんか出てこないのに時間ばかりが過ぎていく。今日も何も空き缶ぐらいしか積み上げないで誰かの自分磨きに羨望の溜息を吐く。