一年を振り返るとずいぶんと曖昧にしか思い出せないことがずいぶんとある。あまり嬉しくないものもあっただろうから忘れるぐらいがいいのかもしれないと思うものの、記憶力が低下したような気もしてくる。また一つ年を重ねた割に成長がないどころか老化を感じて辟易した気持ちが湧いてため息が出た。せっかくの年の瀬にずいぶんと後ろ向きな気持ちになり我ながら年末ぐらい少しは明るくなれないだろうか。気分を変えたくてせめてもう少し良い記憶を思い出せないかと考えて、大晦日用に少し良いそばを安く変えたことや、たまたま入った店の食事が良かった等と食べ物に関することばかりが浮かんでくる。食い意地が張っていたつもりはなかったが思考に流されるままなんとなく今年の日々の食事のことを頭に浮かべている間に少し体重が増えたことまで思い出してしまった。寝正月で更に増えるだろうなと考えて、まああまり来年の事を言えば鬼が笑うと言うしとそっとその考えに蓋をする。いろいろなことから目をそらすことは上手くなったなとあまり嬉しくない成長を思う。
年末のちょっとした集まりでみかんをもらった。誰かが箱で買ったらしくとりあえずとばかりに配られたものだ。楽しく話す他の人達の間で手持ち無沙汰にそれを見つめる。明るい橙の色を眺めながら周りの声が耳に入ってくる。会話に入れるほどの関係でもきっかけがあるわけでもなく。盗み聞きする気はないものの聞こえてしまう話に面白さを感じてそう思うことになんとなくどうにも後ろめたさを感じてとりあえずみかんを口にして笑いそうな口元を誤魔化す。
冬休みの話を同僚がしている。どこへ行くだとかどこにもいかないとか。話している姿が楽しげで冬休みそのものよりも予定を立てているときのほうが幸せなのではないかとふと思う。なにか予定を立ててみようかと楽しげな話し声に引きずられて考える。誰に話すでもなくただなんとなくどこかへ行ってみるのもいいかと思いながら、結局思うだけでどこにもいかないまま日々を送るのだろう。そんなもんだよなと自分の不精を実感する。
手ぶくろを外してコートのポケットに入れる代わりにスマホを取り出す、スマホに対応している手ぶくろをいつか買おうと思いながら、なんとなくそのまま使い続けて過ごしている。サイズもあっているし肌触りもいいしと新しく買わない理由をなんとなく上げながら案外に自分はこの手袋を気に入っているのだろうかと、ずいぶんと長く使っている手袋を思う。ひんやりとした空気を感じながらスマホを触る手は段々と冷えていく、メールを見ればたまに買う店からセールの知らせが届いている。狙ったかのような手袋の広告を眺めて今の手袋と比べながら、買わない理由を考えている自分に気が付くとスマホをしまって手袋を取り出す。ずいぶんとお気に入りだったらしいくたびれた手袋を眺めて少し丁寧に指を通しながら、あとで手袋の手入れ方法でも調べるかなと昨日まで考えもしなかったことを思う。
変わらないものはない良くも悪くも、人間変わるもんだよなと、ずいぶんと久しぶりにあったクラスメイトを見ながら思う。当時は真面目で余り人と話すことのない、言い方は悪いが堅物といっていいような人物だった。当時と今あれこれと話している姿はあまり重ならない。熱心に話すなんたらアドバイザーやらうんたらシステムやらについてずいぶんと手慣れた、流れるような熱のこもった話しぶりに比例するようにこちらの内心は冷めていく。年末に来た連絡に懐かしさからあってみたものの、懐かしいクラスメイトの思い出がどこまでも遠くなっていく。自分よりもよほど成績も人柄も良かった、選べる選択肢だってたくさんあっただろうに、どうして、と、なんとも言い難い気持ちに押し潰されるように昔の思い出があせていく。似合ってないよそのギラギラした時計もどこかのブランドだろうスーツも精一杯の羽振りがいいふりも。懐かしさや思い出をそっと過去の中にしまい込んで閉じてしまうまで、そのどこか懐かしい声で話すどこかでマルチ商法まがいと聞いたことのある勧誘は聞き流してあげるよ。クラスメイトだった人を眺めながら、そんなことを思う。