『嘘じゃないんだよ』
「ねぇ、この世界が夢だとしたらどうする?」
「…は?」
書類から顔を上げた彼が眉を寄せる。「何言ってんだ?」という言葉が聞こえてきそうだ。
「……くだらないこと言ってないで仕事しろ」
「え〜!そんなに冷たいこと言わなくてもいいじゃ〜ん!!」
「はぁ……どうせ、エイプリルフールの嘘だろ」
ため息を着きながら言った彼はまた書類に視線を向けた。沈黙が訪れる。
私が口を開きかけた時、何処からか彼の名を呼ぶ声がした。
「ほら、あの子じゃない?行ってきなよ。後は私がやっといてあげるからさ!」
彼は小さく「…ありがとう」と言うと、部屋を出ていった。いつもの無表情だったつもりだろうが、嬉しさが滲み出ていた。あの子に頼られるのが嬉しいのだろう。
私は窓の外を見る。綺麗な青空に月が浮かんでいた。赤い月が。
「さぁて…彼はいつ気づくのかな?」
背伸びをしながら見た時計は、午後1時を指していた。
【エイプリルフール】
『交わらなかった想い』
「何してるんだ!戻ってこい!!」
歩き出す私に彼の声が飛ぶ。彼がバリアを壊そうとしている音が響いた。
「そのバリアは壊れないよ。なんたって、この私が作ったんだから」
彼もそのことは理解してるはず。だから、壊そうとしても無駄なのに…。
手が傷ついてしまうからやめて欲しいと思うと同時に、必死に止めてくれてるのが嬉しく思ってしまった。…自分にはそんな資格ないのに。
目の前には、暴走している機械。これを止めるには誰かの命を捧げなければならない。なら、その役目を負うのは私で十分。
彼の方を振り返る。目が合った。
「私を許してくれてありがとう。優しくしてくれてありがとう。…仲間って言ってくれてありがとう。
大好きだったよ」
「な、何を言って…?」
彼の目は不安そうに揺れる。そんな彼に、自分が出来る最高の笑顔を向けた。
「あの子と幸せになってね!」
画面に手をかざすと、眩い光に包まれた。
ーー
そっと目を開ける。機械は暴走が止まったみたいで、先程までの五月蝿さが嘘みたいに静まり返っていた。その機械の前に彼女が倒れていた。俺は手の痛みを無視して急いで彼女に駆け寄る。あれだけ邪魔だったバリアはもう無かった。
彼女を抱きかかえて名前を呼ぶが、目を固く閉じたままピクリとも動かない。
「自分だけ言いたいことだけ言って…俺の話は聞いてくれないのか…?」
彼女の頬を撫でる。あれだけ体温が高かった彼女が冷たくなり始めていた。
「好きだ…愛してる。俺を置いていかないでくれ…」
彼女が、自分たちを裏切ったことを負い目に感じているのはよくわかっていたつもりだった。でも、こんなことするなんて思いもしなかった。
「起きてくれ、なぁ。
俺はあんたがいないと幸せになれない…!」
【幸せに】
『宣言』
知ってるよ。君がいつも助けてくれてたこと。
誰にも気づかれないように、何気ないふりをして助けてくれてたんだよね。
本当にありがとう。でも……
「感謝の言葉も聞かずに消えるのは違くない?」
足に力を込めて立ち上がる。消えた方向を見つめて、にっと口角を上げた。
「絶対に捕まえてやる」
この時の私は今までで一番いい笑顔をしてたと思う。
【何気ないふり】
『迷い、単純』
吸って吐いてを繰り返しているが、呼吸が整う気配がない。
目の前の光景を信じたくはないが、2人から流れる赤がこれは現実だと突きつけてくる。
どうして…どうして、こうなった?
「俺が…迷ったから…?」
目の前の男が口を動かした。が、今の俺の頭はそれを受け付けないようで、何も聞こえない。わかるのは、男が俺に銃口を向けていることだけ。
殺される、そう思った時何処からかクスクスと笑い声がした。
「あの男を殺せば、すべて解決するよ」
後ろから聞こえたのは、嫌に耳に残る甘ったるい声だった。
「殺すだなんて、俺には……」
肩に手を置かれる。悪魔の囁きがまた聞こえた。
「この状況を作り出したのは誰?仲間を殺したのは誰?全部全部……あの男でしょ?
ほら、立って。私がハッピーエンドに導いてあげる」
肩にあった手が腕まで下ろされた。その手に支えられて立つ。
そうだ、全部全部あの男のせいなんだ。なら、倒さなきゃ。俺は……正義のヒーローなんだから。
後ろで響く笑い声が途絶えることはなかった。
【ハッピーエンド】
【見つめられると】