【どうして】
『幼少期の悪夢』
「ここは…?」
目を覚ますと、そこは遊園地だった。ただ、人ひとりっ子いないしアトラクションも寂れていた。でも…どこか見覚えがある。いつ、誰と見たのかは思い出せない。
突っ立っていても仕方がない。誰かいないか探そう。
そう思い足を踏み出した所で、誰かが泣いているような声が聞こえた。辺りを見渡してみると、遠くの方に小さな女の子がいた。あの子が泣いているらしい。
「大丈夫?」
近寄って声をかけてみる。女の子はぬいぐるみを強く胸に抱きながら、ゆっくりと顔を上げた。その顔を見て、驚きで声が詰まる。女の子は……小さい頃の自分だった。
「パパとママがいないの…お姉ちゃん知ってる?」
女の子…小さい頃の自分が問いかけてくるが、何も答えられない。喉になにか詰まっているように、「…ぁ」とか「ぅ…」とかなど小さな声しか出ない。
「お姉ちゃん?」
何も言わない私に、目の前の自分が首を傾げる。そのまま何も言えずにいると、興味を無くしたように「パパとママ、どこに行っちゃったんだろう……」と何処かに歩いてしまって行った。
小さい自分が歩く度に影も一緒に揺れる。その影から目が離せずにいると、いきなり影が大きくなり目と手が生えた。その目と目が合うと、影が勢いよくこちらに向かってきて、私を飲み込んだ。
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「はっ!」
勢いよく目を開ける。見慣れた天井が目に入った。息が乱れていて、汗もびっしょりだ。
今のは夢だったのか……
そう安心していると、パタッと音がして何かが落ちた。体を起こして、それを拾う。それはぬいぐるみだった。…ちょうど、今見た夢の中の自分が持っていたものと同じの。
夢の中の自分と同じようにぬいぐるみを胸にだく。
「早く…早く助けてよ……」
【夢を見てたい】
『最高の幸せ』
トントントンと何かを切っている音と、鼻をくすぐるいい匂いで目が覚めた。体を起こして横を見てもそこにもう彼女の姿はない。ふわぁと大きく欠伸をして、ベッドから出た。
リビングに入りキッチンに向かう。彼女はやはりキッチンで料理をしていた。小さく、ふんふんふんと鼻歌も聞こえる。1つにまとめた髪が横に揺れていた。そんな彼女を後ろから抱きしめた。
「うわぁっ!」
「おはよう」
驚いた声を出した彼女は呆然となりながらもこちらに振り返り「おはよう…」と返してくれた。
「今日の朝ごはんは?」
「ご飯とお味噌汁と、あと鮭も焼いてるよ」
「やった」
今日の朝ごはんは和食らしい。グリルを見ると確かに鮭が2匹入っていた。
「もうすぐ出来るから先に席に座ってて」
そう言ってくれたのでお言葉に甘えてダイニングテーブルに座る。もう箸などは用意されていた。
程なくして彼女が料理を持ってきた。それを「ありがとう」と言って受け取り、2人で向かい合わせに座る。
「「いただきます」」
そう言ってご飯を食べ始める。味噌汁を飲むと、体が内からじんわりと暖かくなるのがわかる。
うん、美味しい……
彼女も味噌汁を飲んで、頬を緩めていた。
目の前には美味しいご飯と、最っ高に愛おしい人。そして2人の薬指には同じ銀色の指輪が嵌めてある。
これからもこんな生活が続くのかと思うと嬉しくなり、幸せを噛み締めるようにご飯を口に入れた。
【ずっとこのまま】
『いつも1人』
鍵を挿して横に回す。ガチャンという音を聞いて冷たい取っ手を掴んだ。
「…ただいま」
そう言っても言葉が返ってくることはない。無造作に鍵を玄関の棚に置いた。
今日は……もういいな。もう何もしたくない。食欲もないのでもう今日は寝ることにした。メイクを落とし、お風呂に入る。適当に保湿をし、髪を乾かした。この間も家に人の気配を感じなくて寂しくなる。
片付けは明日でいいやと明日の自分に丸投げし、ベッドに潜る。
彼は忙しい人だ。何の仕事をしているかは教えてくれないが、彼には大切な仲間がいるということは知っていた
。でも、私が知っている彼の情報はそれだけだった。付き合えたのも私が押して押して押しまくった結果だった。かなり迷惑だったよね、とあの行動を今更後悔している。
デートもしたことがない。会うのも月に2回あればいい方。でも、1度だけ私の家に泊まったことがあった。あの日は予想以上に雪が降って、危ないからと私が無理やり引き止めたのだ。その時、ベッドで彼と一緒に寝た。特に特別なことは起きなかったけれど、いつもより暖かい空間に思わず頬が緩んだ。
その時と比べて今はどうだろう。1人、冷たいベッドに横たわっている。何時まで経っても冷たい布団が身に染みる。
零れる涙を無視し、目を固く閉じた。
【寒さが身に染みて】
『初めての乾杯』
今日そっちでご飯食べてもいい?
そんなメールが来たのは、夕方、今日の夕飯のことを考えている時のことだった。そのメールに了承の返事をして、バッと立ち上がる。
早くこの汚部屋を何とかしなければ…!
ピンポーンとチャイムが鳴った。
部屋を見渡す。先程までは本やらクッションやらが散らかっていたが、今は綺麗に定位置へと収まっている。次に、全身鏡を見た。前に一目惚れしたワンピースに、髪飾りはお気に入りのシュシュ。…なかなか可愛いじゃないのか。そう自分を褒めながら、玄関に進む。
「はーい」
扉を開けると、鼻を赤くした彼が立っていた。寒そうに震えていた彼は「よぉ」と白い息を吐き出した。
「ほら、入って入って。リビング暖かいよ」
「うん」と頷いた彼は足早にリビングへと向かった。その様子にくすりと笑いながら、私もリビングに向かう。
「ご飯出来たよー」
炬燵で暖まってる彼の前にドンと鍋を置いた。鍋からいい匂いが漂っている。顔を上げた彼の瞳がキラリと輝いた。
「お、鍋?」
「うん、そう。お鍋が美味しい季節だからね」
彼に椀と箸を渡すと、彼が思い出したようにガサゴソと袋を漁り出した。彼が「はい」と渡してくれたのは、私の好きなお酒だった。彼も自分用のお酒を取り出す。
「俺、これが初めての酒だわ」
カシュッとプルタブを開けた彼からの告白。思わず「え!?」と声が出てしまった。
「誕生日迎えたのもう何週間も前だよね!?それなのに今日までお酒飲まなかったの!?」
「うん」
「なんで!?」
誕生日当日からお酒を飲み始めた私からしたら衝撃だった。私の問いかけに彼は目線を下にしてもごもごと喋る。
「初めての酒はあんたと飲みたかったからですケド……」
そう頬を染めながら話す彼。「ふ〜ん」と言った私の顔を見た彼が眉を寄せる。
「何ニヤニヤしてんだよ…!」
「べっつに〜?」
私は自分でもわかるぐらいニヤニヤしていた。私は思っていたよりも愛されていたようだ。
未だに睨む彼に、笑顔を向ける。
「じゃあ初めてのお酒、楽しもっか。」
私が缶を掲げるとと彼も同じように掲げてくれる。そして、音を立てて缶同士をぶつけた。
「「乾杯!」」
【20歳】