黄桜

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3/10/2024, 4:12:59 PM

「お母さん!今日、ドッチボールの試合で勝ったんだよ。すごいでしょ!」

「まぁ!〇〇は運動得意だものね。お母さん〇〇の将来が楽しみだわ〜」

そんなありふれた会話が、風に揺られて私の耳を掠る。その音色は、至って何処にでもありふれる声であり私にとっては特別だと感じることはない。
けれど、確かに私はその時不思議と笑みをこぼしてしまった。それはきっと、かつての思い出とこのありふれている出来事が重なり合う瞬間だったと言えるだろう。
もし、私が天から彼らを見て言葉を発せられたなら平和だと溜息混じりに言ってみたいものだ。

愛は薄れない、その記憶は刻まれている。

お終い

2/20/2024, 10:28:44 AM

同情という感情は1ミリも感じられない。何せ、相手が猫なもんでデカイ欠伸はするが、こちらに対しての気遣いが無いのが目に見えている。
そもそも、猫という生き物は人間のように悩みを抱えるのだろうか。聞いたところで、返事は決まってニャーンとしか泣かないから聞かないことにしよう。
でも、猫は好きだ。誰かに、無理に媚びるように見えず適度に甘えるスタイルがとても好みだ。
こちらも、ストレスなく暮らすことことができる。だが、猫と暮らして思ったことは自分は人と一緒に暮らすのは向いてなかったと言う事だ。

離婚2日目の私は、猫の同情を買いたい。

お終い

2/10/2024, 4:09:41 PM

誰もがみんな、望まれて生まれてきたわけではない。
横の病室で、女の呻き声と助産師達の声援がひどく鮮明に聴こえた。助産師のあとひと踏ん張りという言葉に、女は最後に渾身の力で踏ん張り体を脱力させた。
無事に赤子が産まれた、女の子だ。助産師が女の子を母親の前に連れて行った時、女は化け物と叫んだ。
助産師は唖然とした表情を浮かべることしかできていなかった。
ただ、横の病室で他の患者の診察をしながら思い浮かんだのは、あの赤子は望まれて生まれた訳では無かったという事実だった。
助産師は、急いで赤ちゃん一旦預かりますね〜となるべく呑気な声を出して病室を飛び出して行った。

3時間後

あの女のもとに、赤子が戻ってきたが一緒の空気も吸いたくないと言い張って赤子と助産師を病室から追い出してしまった。
助産師達は少しばかりおでこに皺を寄せていたが、その顔のまま保育室にその赤ん坊と一緒に入っていくのを私は見届けた。
あの女は、どうやら赤子の性別が気に入らなかったようだ。男が欲しいとずっと騒いでいたらしい、検査の段階で、男ともとれる状態のエコー写真の連続だったのが、女の身勝手さを加速させたのだろう。
そして、結果がこれだ。自分と同じ女とわかった途端に授かった命の紐を刃物で無理やり切ったのだ。
この女は、要するに何処まで行っても女でいたいのだ。
そこに、男との間にできた赤子が女だと分かったとなれば、男はそっちに夢中になってしまうかもしれないと恐怖が頭をチラついているのだろう。

オギャと力強い泣き声が私の思考を遮った。3時間前に取り上げたあの赤子だ。
私は、赤子の保育室の個別ケースの横に立った。赤子は、数秒程泣き続けたが、私の存在に気づいたのか小さすぎる手を私に伸ばしてきた。
私は、その手を指で壊れ物を扱う時よりも力を抜きやわらかく握った。
赤子は、その指をはっきりと視認できてはいないが、先の泣き声に負けないくらい力強く私の指を握った。
今頃、私の同期や上司があの女に色々ねちっこく説教ともとれる話でもしているのだろう。

「お前の母さんは、のんびり屋だからまだ会いに
来ないよ。」

赤子は早く呼べと言わんばかりに、指を更に握ってきたた。



少し、回り道になってしまっているね。

お終い

設定 女医は、生まれてすぐに両親に捨てられて病院の
院長に拾われて医者として育てられた。
今回、赤子に接触したのは過去の自分の
姿と孤独を感じさせないため。
彼女の言葉が本音を覆う布のようなのは、
現実を生きる彼女なりの優しさの表れ。

2/9/2024, 8:45:34 AM

皆が、笑う。綺麗に笑い、顔をくしゃりとして笑い、泣くように笑う、悔しさを隠すようにひっそりと笑い、無理に笑おうとして下手くそな笑みを浮かべる。
皆が、求めた笑い方。誰もが、普通と感じる笑い方、皆が、安心できる笑い方。
皆が、馬鹿にするから学んだ笑い方。それは、どれも納得のいく形にならなくて仏頂面に戻してしまう。
私は、彼のその下手くそな笑みが人間臭くて安心した。

彼の笑顔は素敵、私のスマイルは二の次。

お終い

2/1/2024, 10:38:52 AM

ブランコを最後に漕いだのは、いつだっただろうか。
私は、昔小さい頃ブランコが好きだった事を、家の近くの公園を見て思い出した。
幼稚園に、4つ並んだブランコがあったのだが、昼間は大抵年中の子達に独占されてしまうのもあって、私は外があまり好きじゃなかった。
そういう時間は、絵本を読むことで別世界に没頭して現実からは逃げていた。
そうする事で、少しでも孤独的な空間から離れることを選択していたのだ。
私は、公園の奥に2つ並んでいる内、左のブランコに座った。
あの日と違うのは背丈と座り心地の悪さだけだった。


ブランコは、私の過去の思い出を具現化してそこにいる。

お終い

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