黄桜

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12/21/2023, 1:19:45 PM

大空へと羽ばたいてみたい。別に死への願望があるのではなく自分の意識を保ったうえで、意志を持って大空へと羽ばたいてみたいのだ。
外はあまり好きでは無い、暑い寒いといった温度調節をするのに手元が狂ったような空気に、耐えるだけの器を私が持ち合わせていないだけだが、私はそれを自分じゃなく世界が勝手すぎるのだと結論づけている。
話が逸れてしまったが、私は外へ出るのをあまり好まない。だが外で唯一、好きなものがある。それは、遊園地のアトラクションで高所から落下するあの浮遊感である。
擬似的とはいえ、背中に羽が生えたようなあの感覚が恋しくて叶わないのである。

大空への翼を、私の背に乗せておくれ。

お終い

12/21/2023, 2:20:28 AM

喫茶店とかの扉に付いているベルの音って、不思議だと思ったことない?と中学時代からの友人が独り言のように、呟いた。
私は、それが自分に向けての問であることに数秒の時間を費やした。そして、脳がその言葉を認識した瞬間、自分達が喫茶店に入った時のベルの音が脳内に自動的に再生された。
私は、友人が何故その様に思ったのか。友人の求めている言葉を脳内を掻き分けて探し出す事にした。そして、自信は無かったが、神社とかでいう本坪鈴みたいな感じかと問うた。友人は、どうやら話題に乗っかてくれたのが嬉しかったのか饒舌に語り始めた。
極たまに聴く事こそが、ベルの音のいい所らしい。私には、理解できない領域だと思った。私は、ベルの音というと福引で何等が当たった時とか、クリスマスなどのお遊戯会でクリスマスソングを演奏する時とかに、使うイメージが頭に定着しているからだろうな。
どうやら、友人は話を終わらせる気は無いらしい。いいさ、気長に聞こう。なにせ、暇だから喫茶店に入ったのだ。

束の間の世間話のベルの音、積もる話にはならん。

お終い

11/24/2023, 11:37:56 AM

小さくなったセーターが、クローゼットの奥から出てきた。おそらく、五年ほど前に着ていたものだとサイズから判断した。
けれど、小さくなったそれを今の自分は着ることはできないし、何よりお下がりとしてあげられるほど、綺麗では無い事は明らかだった。ふと、自分の体にセーターを合わせてみたがやはり腕の丈が10cm程差があった。
自分が成長したのか、セーターが縮んだだけなのかはこれを着ていた当時の自分に聞くしかないが、私はそれを成長と結論づけセーターをひざ掛けに変えて使う事を決めた。

形を変えて、私と共に。

お終い

11/12/2023, 3:05:49 PM

私の周りに来る人間はスリルを求めているようだ。私は、普通の人間に比べたら、感情の起伏があまりない。普通なら、怒るような事を笑って許してしまう。
だから、変な人間に好かれる。リストカットをしているのだと明かしてきた高校時代の知り合いが、どんな言葉を求めていたのかは知らないが、私は消毒だけは忘れずにしなよと行為そのものを否定する事はしなかった。
次の日から、その知り合いに付き纏われる事が増えた。他の人間と話していると割り込んで、私に話しかけるなとその口で吠えていた。
私は、心の中でうるさいなと思うばかりだったが、現実では急用でもあったのと、気付かないふりを装う言葉を口にした。知り合いは嬉しそうに、私の手を握り外で2人っきりで話をしようと持ちかけてきた。私が、返事をするより先に知り合いは私の体を引き摺っていたが、私は何も言わず流れるままに身を任せた。

知り合いは、私の許容範囲にスリルを感じている。

お終い

11/11/2023, 11:17:43 AM

飛べない翼を持って生まれた私達。いつか、本当に飛べると思っていた子供時代。挫折を味わった中学時代。諦めを覚えた高校時代。夢とは違うものに追われた大学時代。
そして、社会人となりその飛べない翼を、もぎ取られた私は、社会の渦に放り込まれた。もう、私は飛ぶことを夢見ることすら出来なくなってしまった。
私は、必死に仕事をこなした。来る日も来る日も上司とパソコンに睨みをきかせていた2年後に、会社の同僚と結婚し子供を産んだ。
その子供は、私そっくりの飛べない翼を持っていた。

飛べない翼は必要だったのだろうか。

お終い

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