題:見ようとも
心の中の風景は、きっと幼い頃に色褪せてしまったのでしょうね。
……ただの憶測でしかない。どうしても憶測のようになってしまうのだから。
見ようとも思わない。見たくない。
きっと私が心の清い人じゃないからでしょうね。
もし私が心の清い人だったら、心の中の風景は見ることが出来て、美しく彩られているのかしらね……。
……あぁ、貴方の心の中の風景はどんな風景なのでしょうね。
私は、貴方が心の清い人であること、そして、心の中の風景が満点の星空であることを、知っているわ。
お題『心の中の風景は』
題:夏の終わり、夏草の香り
私は、夏草の香りが好きだ。
何だろう、独特の青臭さが落ち着くというか……。
ほうき星の天文台のロフトは草原が広がっている様な雰囲気で、夏草の香りがしそうで大好きだ。
温かい、灯りのような……。
そんな、落ち着く夏草の香りも、もう終わりです。
お題『夏草』
題:地に足をつけて
常に浮いて移動をしている私は、地面に足をつけて移動することが困難だ。
幼い頃は今ほど技量が無かったので、浮遊魔法を使うとすぐ魔力切れを起こしていた。だから地面に足をつけて移動するなど、造作もないことだった。
でも、たまには浮遊魔法無しで移動してみたくなるんですけど……。
「わっ」
転びそうになって慌てて壁に手を付く始末……。
もうこのまま浮遊魔法で良いかなと何回思っただろうか……。
✧ ✧ ✧
だいぶ浮遊魔法無しで移動が出来るようになって来た。
しかし、「だいぶ」なだけで、まだ不安定だ。
今日は公園で練習することにした。公園なら、走ることも出来る。
(よし)
気合を入れてから。
「……あ!」
ヤバッ、此処は掴むところも無い。つまり、顔面から転ぶ!
「ッ……!」
目を瞑って、手を握りしめる。
と。
「大丈夫ですか?」
いつまで経っても地面に顔がつかず、代わりに腰に温かいものが触れている。
そして、男性の声。
「え、ええ。ありがとうございます」
私を支えてくれた人は、肩までの金髪を後ろで束ね、耳が尖っており、碧色の瞳の青年だった。
(エルフ?)
珍しい。人生で2回しか会ったことがない。
「俺はリンクです。怪我がなくて良かったです。では」
「あっ……」
その人は颯爽と走り去っていった。
その姿と声色に、胸が高鳴るのを感じた。
お題『素足のままで』
題:手を伸ばしても
私なんかよりも遥か遠くにいる貴方には、いくら手を伸ばしても届かない。
だから私は進もうとしたけれど、これ以上は進んではいけない。
私と彼は、これ以上でもこれ以下でもない。
でも、あともう一歩だけ……。
あと一歩だけで良いから……。
彼とあともう一歩の関係にしたい。
お題『もう一歩だけ、』
題:見知らぬ街の、見知らぬ貴方
俺は見知らぬ街に着いた。
見知らぬ街に少々不安を覚えるが、好奇心もあった。
夜といっても、街はまだ煌々と輝いている。賑やかな街だ。
「まずは物資の補充をしないと……」
そう、俺は冒険者だ。色んな街や村を巡って旅をしている。
一旦広場に出て、順に店を回ることにした。
「ん、誰だあの人……」
見知らぬ街なのだから誰か分からないのは当然なのだが、妙に気になった。
その人は右目を隠していて、肩出しの裾の長い浅葱色のドレスが映える人だった。
それと、隠していない左目が、星空みたいに綺麗だった。
魔導書店で買ったのか、たくさんの魔導書を持ってた。
自分のやる事を思い出したからその人の前を通り過ぎようとしたら……。
立った拍子に魔導書の重さでグラついたのか、魔導書を地面に落としていた。
慌てて俺も拾うのに加勢する。
「あ、ありがとうございます」
「いえ、こんな事が起こって無視することの方が無理でしょうから」
その人は申し訳なさそうに瞳が揺れていた。
全て拾い終わると、名前を聞かれた。
「リンクです」
「リンクさん、ですね。ありがとうございました、リンクさん」
深々とお辞儀をされ、少し恥ずかしかった。
その人とはその場で別れた。
その後、何ヶ月か街に滞在し、次の街に向かったのだけれど……。
その街にその人が居たってことは、また別のお話。
お題『見知らぬ街』