題:溢れる光
自室のカーテン。そのカーテンは、風で揺れている。宇宙には風は吹かないが、ロゼッタの魔法がそれを可能にしている。
新しく替えたベージュのカーテンからは、太陽の柔らかな光が溢れている。
「ママ、綺麗だね!」
「そうね」
ロゼッタはチコとカーテンから溢れる光を見て笑っていた。
ーーこんな風に、この子達の未来も光で溢れていますように。
ロゼッタは、チコの顔を見ながらそう祈った。
「あ、ママ、夜ご飯の時間だよ!」
「あら、そうだったわね。では、行きましょうか」
「うん!」
光の空間から、二人は下へと向かうため、離れていった。
お題『カーテン』
題:群青
「ねぇねぇ、『青く深く』っ言われたら何を思い浮かべる?」
「『青く深く』……ですか?」
「そう!」
「そうですね……。海、でしょうか」
「やっぱり!?」
ピーチが幼い子供の様にロゼッタに顔を近づける。ロゼッタは、『はい』と言って、話を続ける。
「『青く』とだけ言われれば、空や星が思い浮かびます。でも、『深く』も加われば、深さを思い浮かべるため、海だと思いました」
「結構考えて言ったのね。私は特に考えずに言うわ」
「当たり前でしょう。ところでピーチさんは何を思い浮かべたのですか?『やっぱり』ということは、やはりピーチさんも海でしょうか?」
「ふっふっふっ、私はね……」
ピーチは不気味に笑いながらニヤつく。
ロゼッタは、ピーチのその笑い方とニヤつきに、少し引き気味である。
「リンクよ」
「………ふぇ?」
変な声が出た。
何故そこでリンクが出てくる?
「ほら、リンクのイメカラ(イメージカラー)って青でしょ?」
「そうですけど、『深く』の理由は?」
ピーチはまたニヤつく。
ロゼッタは、ニヤつきが止まらないピーチを本気で心配している。
「ロゼッタに対する『深い』愛よ」
「………ふぇ!?」
また変な声が出た。顔が真っ赤になる。
ピーチはそのロゼッタの様子に、少し満足そうに言う。
「だってリンクって、ロゼッタに対してはかなり優しいし、ロゼッタを大切にしてるっていうか……」
「いやいやいや、優しいのは誰に対してもですよ!?私以外のことも大切にしてますよ!?」
「その否定の仕方は、ロゼッタもリンクのことを……?」
「違いますってば!!!!」
最後は顔を限界まで赤くして、全力で否定する形になった。
その後、ピーチはロゼッタと別れた。
帰る途中、ピーチは独り、呟いた。
「わかりやすいのよ、あんたは。リンクのこと好きなの、バレバレよ」
呟いた後、ピーチは思いっきり伸びをした。
「さーて!恋愛の大先輩として、ロゼッタのことを全力でサポートしなきゃ!付き合うとこまで持ってかなきゃね!」
濃い群青色の空に向かって、そう宣言する。
(見てなさい、リンク。あんたを『好き』から『愛してる』にしてやるんだから)
ピーチは誰もいない平原で、拳を突き上げた。
お題『青く深く』
題:羽ばたきましょう
自分の知らない場所に無性に行きたくなる時って、ありませんか?
実は、私にもあるんです。
私の知らない星の海へ、世界へ、行きたくなることがあるんです。
でも、皆さんと会えなくなるかもと思うと、飛び出せないんです。
えっ、分かる?ふふっ、ありがとうございます。
勇気がないっていうのは否定しません。でも、いつかは行かなくちゃって思ってるんです。
何ですって?貴方も未知の世界に行く勇気が無いと?私と同じなんですね。少し安心しました。
……それでも私は、チコの想いを無下には出来ないんです。だから、行きたいんです。
それじゃあ、一緒に行こう?二人だったら、不安も半分?……ふふっ。
分かりました。では、一緒に、羽ばたきましょう。
まだ見ぬ世界へ!
お題『まだ見ぬ世界へ!』
題:百年後まで
「もう、いいんです、もう……!貴方だけでも、逃げて!」
俺の後ろで叫ぶゼルダ姫。ガーディアンの動き回る音。人々の逃げ惑う声。
ーー悪夢だ。
そう、思った。今、ハイラルは厄災と戦っている最中だった。ハイラルはずっと厄災と戦ってきた。その度に現れる退魔の剣を持つ勇者と、聖なる血をひく姫、そして英傑達。
俺達は今から一万年前のことに倣って、厄災を迎え討つ予定だった。
英傑達を神獣の操り手とし、勇者も、姫もいる。……なのに。
この現状はどうだ。英傑達は全員厄災に殺され、未だゼルダ姫の封印の力も目覚めない。
ーー終わり、なのかな。もう、これ以上は、無理なのかな。
俺の身体はもう限界だった。ものすごい量の血が流れ出ている。正直、此処まで逃げ仰せられたのは奇跡だろう。
……俺は身体に残る微かな力を振り絞って立ち上がった。
ーー見つかった。
ガーディアンに見つかった。
「っ…!」
ゼルダ姫が後ずさる。ガーディアンはガラクタと化したガーディアンを踏み、俺達を見下ろすと、俺の頭に照準を合わせる。
もう俺には、抵抗する力が残っていなかった。
ーー…死んじゃうな、俺。……もっと皆と、居たかったのにな。
死を悟った俺は、意外にも冷静だった。
するとゼルダ姫は、俺を押しのけ、ガーディアンの前に立ちはだかった。
「やめて!!」
ゼルダ姫が右手を突き出すと、その手の甲が光り始めた。……トライフォースの紋様を浮かび上がらせて。
周囲は光に包まれ、数秒後、ガーディアンから怨念が抜け、ガラクタとなった。
「……私、これ……」
「……っ…」
足元がぐらついて倒れた。
「……!お願い、死なないで!」
ゼルダ姫が俺を抱き起こして懇願する。
「……ケホッケホッ……っ」
「あぁ……!」
力が抜けた。何も言えなかった。意識が薄れていく。
ーー貴方の最後の声が『死なないで』なんて……。もっと、元気な声が聞きたかった……。……ごめんね。
……………………。
今、俺は生きている。そして、ハイラルを旅しながら、厄災を討つ。
英傑達のお墓参りには行っている。
ーーゼルダ姫、今度は、元気な声を、聞かせてくださいーー。
お題『最後の声』
題:愛で溢れさせて
『大切な場所=寂しい場所』
そう認識するようになったのはずっと昔。チコ達と星の海に旅立ってからまだ間もない頃だっただろうか。
そうだ。確かに家族の思い出がたくさん詰まった大切な場所は、記憶の底にずっと居座る寂しい存在となる。そして次第に、そこに行くことすら拒否するようになる。
ママを亡くして2年ほどは、花を手向けにあの丘に赴いた。けれどあの丘に通う内に、どうしようもない喪失感に駆られ、そのうち行かなくなった。
広い城の中に居ると、いつも虚無感に襲われる。ママのところに行きたいと、何度願っただろう。でもママは、それを、きっと、拒むだろう。『もっと生きなさい、強く、希望を持って、生きなさい』と。
でも、このどうしようもない喪失感と虚無感は、どうやって埋めればいい?いつまで心を空いたままにすればいい?
そんな疑問が、毎日私の頭の中で繰り返される。
『大切な場所=愛の溢れる場所』
そう認識するようになったのはつい最近。チコ達のママの代わりになることを決意して、何百年も旅してのこと。
寂しい場所と認識するようになったのはずっと昔なのに、愛の溢れる場所と認識するようになったのはつい最近だなんて。……もっと早く気付きたかった。
星見のテラスには、楽しい小さな愛が溢れていて。城の庭には、煌めく小さな愛が溢れていて。そして、私達の暮らしていた、城には……。
華やかで幻想的な小さな愛が、美しい彩星のように溢れていた。
涙も溢れる。
ーーママ、私はこんなに幸せに満たされたところに居れたことが……何よりも……嬉しい……。
雨の降る夜。私は雲の上で、お星様になって、ロゼッタが泣き止むのを待っていました。
お題『小さな愛』