題:百年後まで
「もう、いいんです、もう……!貴方だけでも、逃げて!」
俺の後ろで叫ぶゼルダ姫。ガーディアンの動き回る音。人々の逃げ惑う声。
ーー悪夢だ。
そう、思った。今、ハイラルは厄災と戦っている最中だった。ハイラルはずっと厄災と戦ってきた。その度に現れる退魔の剣を持つ勇者と、聖なる血をひく姫、そして英傑達。
俺達は今から一万年前のことに倣って、厄災を迎え討つ予定だった。
英傑達を神獣の操り手とし、勇者も、姫もいる。……なのに。
この現状はどうだ。英傑達は全員厄災に殺され、未だゼルダ姫の封印の力も目覚めない。
ーー終わり、なのかな。もう、これ以上は、無理なのかな。
俺の身体はもう限界だった。ものすごい量の血が流れ出ている。正直、此処まで逃げ仰せられたのは奇跡だろう。
……俺は身体に残る微かな力を振り絞って立ち上がった。
ーー見つかった。
ガーディアンに見つかった。
「っ…!」
ゼルダ姫が後ずさる。ガーディアンはガラクタと化したガーディアンを踏み、俺達を見下ろすと、俺の頭に照準を合わせる。
もう俺には、抵抗する力が残っていなかった。
ーー…死んじゃうな、俺。……もっと皆と、居たかったのにな。
死を悟った俺は、意外にも冷静だった。
するとゼルダ姫は、俺を押しのけ、ガーディアンの前に立ちはだかった。
「やめて!!」
ゼルダ姫が右手を突き出すと、その手の甲が光り始めた。……トライフォースの紋様を浮かび上がらせて。
周囲は光に包まれ、数秒後、ガーディアンから怨念が抜け、ガラクタとなった。
「……私、これ……」
「……っ…」
足元がぐらついて倒れた。
「……!お願い、死なないで!」
ゼルダ姫が俺を抱き起こして懇願する。
「……ケホッケホッ……っ」
「あぁ……!」
力が抜けた。何も言えなかった。意識が薄れていく。
ーー貴方の最後の声が『死なないで』なんて……。もっと、元気な声が聞きたかった……。……ごめんね。
……………………。
今、俺は生きている。そして、ハイラルを旅しながら、厄災を討つ。
英傑達のお墓参りには行っている。
ーーゼルダ姫、今度は、元気な声を、聞かせてくださいーー。
お題『最後の声』
題:愛で溢れさせて
『大切な場所=寂しい場所』
そう認識するようになったのはずっと昔。チコ達と星の海に旅立ってからまだ間もない頃だっただろうか。
そうだ。確かに家族の思い出がたくさん詰まった大切な場所は、記憶の底にずっと居座る寂しい存在となる。そして次第に、そこに行くことすら拒否するようになる。
ママを亡くして2年ほどは、花を手向けにあの丘に赴いた。けれどあの丘に通う内に、どうしようもない喪失感に駆られ、そのうち行かなくなった。
広い城の中に居ると、いつも虚無感に襲われる。ママのところに行きたいと、何度願っただろう。でもママは、それを、きっと、拒むだろう。『もっと生きなさい、強く、希望を持って、生きなさい』と。
でも、このどうしようもない喪失感と虚無感は、どうやって埋めればいい?いつまで心を空いたままにすればいい?
そんな疑問が、毎日私の頭の中で繰り返される。
『大切な場所=愛の溢れる場所』
そう認識するようになったのはつい最近。チコ達のママの代わりになることを決意して、何百年も旅してのこと。
寂しい場所と認識するようになったのはずっと昔なのに、愛の溢れる場所と認識するようになったのはつい最近だなんて。……もっと早く気付きたかった。
星見のテラスには、楽しい小さな愛が溢れていて。城の庭には、煌めく小さな愛が溢れていて。そして、私達の暮らしていた、城には……。
華やかで幻想的な小さな愛が、美しい彩星のように溢れていた。
涙も溢れる。
ーーママ、私はこんなに幸せに満たされたところに居れたことが……何よりも……嬉しい……。
雨の降る夜。私は雲の上で、お星様になって、ロゼッタが泣き止むのを待っていました。
お題『小さな愛』
題:美しく輝け
私はキノコ王国のある平原へ舞い降りた。
その理由はただ一つ。明日が『星屑祭』だからだ。
星屑祭とは、百年に一度の盛大な祭りのことだ。
でも私は屋台の物を買うだけで、星屑は観ない。
……悲しくなるから。
私は、チコ達のお土産を買うだけで充分なのです。
星屑祭当日。
ピーチ城の前は、多くの人で賑わっていました。
私はいつも通り屋台の物を買おうとし……
「貴方、いつも星屑祭に来ている方よね」
驚いた。まさか覚えられていたなんて。
「貴方有名よ?土産物だけ買って星屑は観ない謎の女性って。ねぇ、よかったら一緒に観ない?」
とんでもない。今まで悲しくなるのに見なかったのに、今見てしまったらきっと涙腺崩壊する。
でも相手はこの王国の姫だし……。断ろうにも断れない相手……。
「……はい……」
「やった!約束ね。じゃあ、今日の8時に、大きな木のある丘集合ね!」
どうしましょう……約束……してしまった……。
それよりも、集合場所って、もしかして……。
大きな木、丘、ママの眠る、大きな木、星見のテラス……。
星見の……テラス……。
夜8時。約束の時間通り、ピーチさんはやって来た(王国の姫に向かってさん付けは失礼かもです)。
「来てくれたのね!」
「約束したからには来るのは当たり前でしょう?」
「ふふっ、そうね。さ、そろそろ星屑が降るわよ」
もう、降ってしまうのですね。
あの悲しい出来事を、鮮明に思い出してしまうのですね……。
あぁ、星屑が降ってきた。
「……綺麗ね、とても」
「……」
私は黙っていた。涙を堪えるのに必死だった。
夜、パパと観に行って。弟とソリをして。ママとお弁当を食べて……。
もう無理だ。
気づいたら、泣いていた。
ーーああ、空はこんなにも。
美しいものだったなんて……。
ごめんね、ママ、ごめんね……。
『泣かないで』
頭上でママの声。いいえ、ピーチさんの声だったかもしれません。
お題『空はこんなにも』
題:孤独
私は子供の頃、夢がなかった。絶望しかなかった。
ママが亡くなった現実から必死に逃げていただけ。そんな人に夢が与えられるわけがない。
でも、私と同じように孤独なチコと共に過ごしていくうちに、この子たちのママになりたいという夢ができた。
そして、この子たちが寂しくないように、ママになって、努力して。
最初に出会ったチコは、私のために星になった。当時は、泣き叫んだ。
貴方までいなくなったら私は何を糧に生きていけばいいの?と。
泣き叫ぶ私を慰めながら、あの子はそういう運命だった、むしろ大切な人のために星になれてあいつは幸せだと、言ってくれた。
あの温もりは、今でも忘れられない。
……今の私の夢?今の私の夢は……。
この子達の本当のママになること。
お題『子供の頃の夢』
題:白いマーガレットに誓って
「どうして花壇に?」
放課後、リンクさんを花壇に呼んだ。
ここの花壇は私のお気に入りの場所である。レースが終われば門限ギリギリまでここに入り浸っている(よくジュゲムさんに注意されますが)。
だからリンクさんもここが私のお気に入りであることを知っている。
そこで私は、花壇に植えられていた白いマーガレットをとって花占いを始めた。
「好き、嫌い、好き、嫌い……」
実はリンクさんに告白しようと思ってここに呼んだのだ。そして、花占いで『好き』が出たら告白するつもりだ。
ーーでも、『好き』が出るのは確実だから。
だって、マーガレットの花びらの枚数は奇数だから、最初に好きと言えば確実に『好き』が出る。
「え、急に花占い始めてどうしたんですか?」
まだ気付いてないみたい。リンクさんって意外に鈍感?
「……好き」
ーー告白する心の準備はできている。
この想いを、言葉にするだけーー。
「リンクさん、好きです」
リンクさんの顔を見ていなくても、リンクさんが赤くなっているのが分かる。
私の顔も熟れたリンゴくらいになっているのだろう。
「え、えっと……」
リンクさんが言葉を紡ぐ。
「……俺も、好きです……」
その一言で、視界が滲む、ぼやける。
涙が止まらない。
リンクさんがそっと私の手を握る。
ーー大好き。
お題『好き、嫌い、』