燈翠。

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8/23/2024, 12:56:16 PM

∮海へ

なんとなく、家を飛び出してみて

ふと海が見たくなった。

路面電車に揺られながら舟を漕いでいると
開いている窓の風が髪をくすぐる

重たかった瞼を上げてみれば
潮の匂いと共に一面の青が飛び込んできた

その日は雲一つない快晴で、まるで水平線が空にとけているようだった。

思わず衝動に駆られ、停車駅で見知らぬ土地へ降り立つ

うだるような暑さと駅員室の風鈴が夏を詠んでいた。

海にたどり着くのは簡単だった

どうやら小高い丘の上に自分はいたらしい
ゆるやかな傾斜をひたすらに下っていく

途中にある昔ながらの駄菓子屋でアイスを選ぶ小学生やブレーキを知らない高校生が二人乗りで駆け抜ける様は夏の1ページにふさわしかった

いざ海を目の前にして

ここはやはりと言うべきか、緑がかった海水がそこにはあった。
ところどころに浮かぶビニール袋が波に揺れている

そのまま塀に沿って歩いてみれば海水浴場の姿が見えた

さらに進めばそこで道は終わってしまった

誰も使っていないような階段を見つけそっと降りる

宛もなく消波ブロックの上を渡っていれば、5㎡程度の砂浜に出た

街の喧騒が遠のき、波の音だけが頭に響く。

靴を脱ぎ捨て足で海に触れば、ヒヤリとした水特有の感覚にさらされた

私の中の何かが、ずっと探し求めていたものを見つけたように満たされていった。

(また来よう)

今度はちゃんと、全てに向き合ってから。

6/14/2024, 5:12:35 PM

∮あいまいな空

毎日、丘の上にある家に帰る坂道を自転車で漕いでいく

いつもどおりの変わらない景色の中で

唯一姿を変えるもの

いつも空を見上げれば、365色のパレットが空を彩っている

ある時は朱々と染まる夕焼けだったり

ある時には快晴の星空が散りばめられていたり

何気なく見ている空を見て、ふと思ったことがある

『この空は、もう2度と見られない景色なんだ』

そう思うと無性に切なくなって、目一杯記憶に留めておこうとしてみるけど

3日も経てばその色は朧げで、あいまいだ

カメラ越しに遺したって、それは〝あの時〟の空なんかじゃなくて

だからいつも、そんなあいまいな空を眺めながら

変わらない景色だと思い込んで日々が過ぎていく

あなたは、昨夜の空の色を憶えていますか?

6/3/2024, 3:10:02 PM

∮失恋

恋の終わり方には色々な形があるけれど

別れたからといって

必ず恋を失う訳ではないように思う

胸の中の灯火が、少しずつ、少しずつ、

小さくなって失われるのを待っている

でも、心から消えたとしても

いつかあんなときもあったなと

幸せだった記憶を思い出して笑いたいから

この名残は失いませんように

5/26/2024, 1:07:14 PM

∮月に願いを

平安の時代、人々は今よりも遙か澄みわたる夜空を見上げ詩を詠んだ。

天の川でさえも燦爛と輝いて見えるだろう空へ

人々は月を謳った。

その当時に生きる者にとって月とは、

夜を照らす希望であり

別れを告げる余韻であり

共に空を仰ぎみる道導であった。

星に願いを祈る私たちは、月を見ているようで視れていなかったのかもしれない

何時だって月は、太陽よりも傍で私たちを見守っている

星を探して見上げる前に

お天道様に見られる前に

月に願いを

5/20/2024, 2:55:41 PM

∮理想のあなた

理想ならいくらでも妄想を掻き立てたことがあった

まずは、勉強もスポーツもできる。

その〝できる〟になるまでに努力を重ねられる。

現実から目を背けずに真っ向から立ち向かう。

そしてその勇気が報われて実を結ぶ未来。

どれも叶わずにいる今が、どうしようもなく虚しい

手を伸ばせば届きそうなのにな

ねえ、理想の自分へ

あなたの見る景色はどれほど輝いてるの?

私もそこに辿り着けるかな

返事はない。その代わり、微かな希望を胸に抱いてる、

ありのままの自分が居た

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