∮海へ
なんとなく、家を飛び出してみて
ふと海が見たくなった。
路面電車に揺られながら舟を漕いでいると
開いている窓の風が髪をくすぐる
重たかった瞼を上げてみれば
潮の匂いと共に一面の青が飛び込んできた
その日は雲一つない快晴で、まるで水平線が空にとけているようだった。
思わず衝動に駆られ、停車駅で見知らぬ土地へ降り立つ
うだるような暑さと駅員室の風鈴が夏を詠んでいた。
海にたどり着くのは簡単だった
どうやら小高い丘の上に自分はいたらしい
ゆるやかな傾斜をひたすらに下っていく
途中にある昔ながらの駄菓子屋でアイスを選ぶ小学生やブレーキを知らない高校生が二人乗りで駆け抜ける様は夏の1ページにふさわしかった
いざ海を目の前にして
ここはやはりと言うべきか、緑がかった海水がそこにはあった。
ところどころに浮かぶビニール袋が波に揺れている
そのまま塀に沿って歩いてみれば海水浴場の姿が見えた
さらに進めばそこで道は終わってしまった
誰も使っていないような階段を見つけそっと降りる
宛もなく消波ブロックの上を渡っていれば、5㎡程度の砂浜に出た
街の喧騒が遠のき、波の音だけが頭に響く。
靴を脱ぎ捨て足で海に触れば、ヒヤリとした水特有の感覚にさらされた
私の中の何かが、ずっと探し求めていたものを見つけたように満たされていった。
(また来よう)
今度はちゃんと、全てに向き合ってから。
8/23/2024, 12:56:16 PM