夢にお前が出てくるのは久々だった。沖縄の海、行きつけのバーガーショップ、二人乗りの自転車、ゲームセンター、毎日顔を合わせた教室、学生寮の互いの部屋。どこに行ってもお前は声が枯れるまで笑っていて、俺も楽しくて仕方がなかった。
夢から醒めると俺は一人で横たわっていて、隣にはもうお前がいないことをまざまざと実感した。
お前も心から笑っているんだと、呑気に信じきっていた自分が心底憎いよ。お前の陰りに気づいていたはずなのに、大丈夫という言葉だけを信じて、きっとお前を取り戻す最初で最後のチャンスにさえ、俺は傍にいなかった。
近づけるのに届かなくて、手を伸ばしたら見えない何かに押し返されるようで、そんな風に思って青ざめた顔を君だけには気づかれたくなかった。
君に全部告げるべきだったのに。
そうすれば、もっと上手く折り合いをつけられたかもしれない。君と道を違えることもなかったかもしれない。全部諦めて、自分なりに覚悟を決めて選んだ道を信じて歩み始めることは、思ったよりもずっと怖かった。
だから私は、君と過ごした蒼い春を、君とすれ違った今もお守りとして胸に住まわせている。
まだ葉の色も変わらないけれど、風が確実に秋を運んできて、空の色が変わった。
よく晴れた群青色の空の眩しさに顔をしかめつつ、隣にいるはずの人に声をかけようとして、ぽかりと空いた空間を見てはため息をついた。秋の空は殊の外切なさを含んだ色をしていて、やがて来るはずの寒々しい冬を恐ろしく思えてしまう。
あいつのいない冬を迎えるのか。
任務帰りにコンビニで肉まんを買い食いして、あいつの部屋に寄って炬燵を堪能し、たまには学食ではなく共に鍋をつついて、暖房の効いた温かい部屋で夜通しゲームをしてーー
そんな日々はもう戻らない。
戻らないけれども、その蒼い春が、今でも胸に住んでいる。