「昨今の時代背景的にさ、男女以外も用意すべきだと思うんよ。」
偶然、ひなまつり直前に帰省してきた姉がいかにもな顔でいかにもなことを言う。
「え、なに、急に。」
「折角男も女も居るんだからさ、もっとこう……」
口の中でぶつぶつと呟きながら、期間限定パッケージのお菓子の空き箱を黙々と組み立てている。
暇人なんだな、可哀想に。
可哀想なので付き合ってあげることにした。
制服のジャケットをハンガーにかけて、スエットに着替える。
「ううっ、つめたっ。」
「床暖のとこ置いとけばよかったのにぃ〜……よし、できた!」
「……は!?」
可愛らしい桃色の空き箱の上にちょこんと佇む、
お雛様と、侍女。
「……なにやってんの。」
「……スーッ……身分差っていいよね!!!」
「うるさっ!!」
姉は悶えるように顔を覆って、動かなくなった。
お内裏様は壇上にすらあがらせてもらえていない。
「ね、この空いたスペースにお内裏様置けばいいんじゃない?」
「は???こっちはこっちで百合の花咲いてんでしょ。てぇてぇに挟まる奴はお内裏だろうと許せねぇ。」
「桃じゃないんだ……」
「あーーーでもこっっっち、は、あり?かなぁ〜〜〜?いやでも男五人集は奇数なのがいいんだよ……誰か絶対報われないのがさぁ……!」
久々に会った姉のめんどくさいスイッチを押してしまったようなので黙って部屋へと踵を返す。
お母さんへ。
雛人形をはやく仕舞おうが出しっぱにしようが、この人は結婚できません。
「ただいま〜。あっねぇもうお姉ちゃん帰ってきてんの〜?」
「ただいまー。」
「おかえりー。アニメイト受け取りできた?」
「うん。朝イチで取ってきた。」
「そ。よかった。」
「ねぇ、お母さん見て。」
「えっ?……まって天才?天才か?」
「えっ、だよね?」
「やばい、うちの子天才すぎる。ちょ、Xにあげるわ。」
あんたのせいか。
「お前が俺の唯一の希望だ。生きる意味なんだ。気持ち悪いだろ。」
ついに告白した。
そしたらあいつ、死のうとした。
よほど嫌だったのか。
それともあいつのことだから、「お前の苦悩終わらせてやんよ。」とか言うのだろうか。
「ごめん。ぜんぶ奪いたかったんだ。好きも希望も夢もぜんぶ。……嫌いなんかじゃないから。むしろ……」
そこまで言って黙ってしまった。
「……気持ち悪いから。これ以上は。」
「俺よりも?」
「うん。お前なんかよりずっと。」
「……だったらなんだよ。今更そんなことで嫌になれないようにしたのはお前だろ。」
「……それはそう。うん、そうだね。責任取らなきゃ。」
獲物を追い詰めるかのように一歩一歩。後退りしてしまいたい気持ちを押し殺して、その場に留まる。
「ねぇ、君のぜんぶを俺に頂戴。」
「何処か遠くの街へ行ってしまいたい。誰も私を知らない街へ。」
小説の主人公みたいだった。
「えっ……ええっ!?そんなに!?」
自分はそうではなかったようだ。
「うん。遠く、遠くに今すぐ飛ばされたい。」
「えぇ……桃鉄のぶっとびカードみたいだね……。」
ギャグ漫画の主人公ならいけるかも。
「だって……幸せすぎる。こんなこと現実に起きていいの?いいはずないわ、やっぱり夢……」
「夢じゃない!!!」
だから、
「顔、見せてよ。」
「なんでぇ……」
見たいからじゃダメ?
「見せてくれるまで何回でも、なんならここでずっと言うよ、好きって。」
太陽のような君に灼かれてしまいたいけど、灰になった僕を愛してくれるほど太陽は孤独じゃない。わかってる。
それでも唯一無二の君の光で、骨すら遺らないように、灼き尽くしてほしいと願ってしまう。
枯葉に似た虫がいると知った日から、落ち葉を踏んでバリッ!というとゾッとする。