その花が至って普遍的なのは、その花よりも覚えておくべきことがあるからで、
その花が目醒ましい程に鮮やかなのは、片時もそのなにかを、忘れないようにするためである。
だから、その花は青く咲くことを選んだ。
だから、その花は群れて咲くことを選んだ。
全ては、誰かの記憶の裏側に居続けるためである。
『勿忘草』
揺れる様、錆びていく鎖がエモーショナルの象徴と化してしまった。
隣並んで立ち漕ぎをして、息が合わないのに笑った。地元の謎ルールに悩まされた。股潜りできない奴は雑魚扱いされた。
ブランコを考えた人だって、きっと馬鹿だったのだ。
少しでも長く宙に、それでいて楽をしようとした。
結果、頑丈な棒を頑丈な棒で支えて、そこに座れそうないい感じの板を二本の紐でどうにかくくりつけよう。そう辿り着いたに違いない。
山に、近づきたかったのだろうか。
空に手を伸ばすのでは飽き足らなかったのだろうか。
今や、コンクリートに囲われた小さな砂利の王国でも、空に近づく唯一の手段なのだ。
『ブランコ』
煤を掃除する度に、時間と記憶を捨てているようで不安になる。思い出しもしない日のことばかり想って、温もりも灯りも、その色も、どうでもよくなっているのだ。
『記憶のランタン』
僕は靴紐が結べなかった。
自分から見て正面じゃないと、どうも蝶々結びが理解できなくて。
けれど今の世は便利なもので、
靴紐なんて無くたってそれっぽく履ける靴なんてたくさんあるし、結ぶ必要のないゴム紐だって、百十円で手に入る。僕のコンプレックスとも言うべき悩みは、硬貨二枚で容易く解決できてしまう。
それでも、この世はまだまだ堅っ苦しくて。
ピカピカの革靴の上で乱れた黒い、細い、ただの紐を
僕は眺めて、祈るしかない。
ほどけませんように。
その願いも虚しく磨き上げられた床の上で奴らが乱れたとき、ふっ、と甘い匂いがする。
蕩けるように微笑んで、僕の足元に膝をつく。
その頭頂部に、柔らかな髪に、触れたい衝動を手元のワイングラスを握り込んで抑えるのだ。
革越しの僅かな感覚と、締めつけられる指先の痺れ。
それを見下ろす湿った視線に気づくはずもなく、小さく息を吐いて立ち上がった微睡み。
僕が僕でなければ、その後を追えたのだろうか。
つまらないことを、動けない足元に問う。
『靴紐』
毎日更新し続ける記録的猛暑も、歴史的観測も、
火傷しそうなほど熱の篭ったバッテリーも君は知らずに
眠っているんだろう。
関係ないって澄ましていたいんだろう。
叩き起こして引き摺り出して、目を丸くした君を見て、
腹の底から笑いたい。
「こんなの、聞いてないって!」
開口一番、元気いっぱいな地球への不満を僕にぶつけて君は空をずっと、じっと、
「こんな空なら、先に言ってよ。」
このまま地球が滅ぶまで
このままこうしていようかだなんて
そんな未来が、あったかもしれない。
『8月、君に会いたい』