『おもてなし』
椅子に縛られ身動きが取れない。
全身を勢い任せに動かせれるがこれで逃げ切れる自信が無い。
動くだけ体力の無駄だ。
屋敷に潜入して情報を手に入れる任務だったのに...
まだ怪我してないのが
逆に今から尋問されるってことかもしれない...
嫌なことを考えたせいで嫌な汗が出る。
とりあえずこの部屋の中だけでも情報を集めて
逃げるルートを確保しないと。
そう考えていると屋敷のメイドらしき人物が入ってきた。
「あぁ...こりゃ素敵なメイドさんだ。
素敵なご奉仕が待ってるのか...?」
「えぇ、素敵なおもてなしがありますので
どうぞご堪能くださいませ。
貴方様から情報が出次第終わりますので
なるべく早くにお伝えした方がよろしいかと。」
そう言ってナイフやら爪を剥ぐ機械やら
拷問器具を取り出してきた。
素敵なおもてなしの始まりだ。
俺は歯が折れるくらい食いしばった。
語り部シルヴァ
『消えない焔』
「全く...次は気をつけなよ。」
元気な返事をして駆け足で持ち場に戻る。
そんなやり取りを見て後輩が話しかけに来る。
「先輩、よくあの新人の面倒見れますね。」
「ん?あぁ、そりゃあ新人だからな。」
「だとしてもミスの量とか異常ですよ。
他の部署から回ってきた理由何となくわかりますもん。」
あの新人は問題児と事前に知らされていた。
確かにミスは多発するし迷惑にはなってる。
だが俺は新人の頑張らなきゃって躍起になってる姿を見ているとどうしてもほっとけなくなる。
俺が今になっては忘れてしまった心を燃やすような姿勢。
それが新人にはあって、
それがとてもかっこいいからほっとけないんだろう。
またやらかしたならその時注意すればいい。
でもきっと、あの新人はここを乗り越えれたなら...
誰よりも強くなると俺は勝手に期待している。
語り部シルヴァ
『終わらない問い』
終わらない問いはなぜ生まれてなぜ議論するんだろうか。
僕の隣で小説を読んでいた君がふと呟く。
答えが出ないのは当然として、
過程を議論したいだけじゃないかな...
なんて答えると君はなるほどなあと
こちらを向かずページをめくる。
疑問や問題が出るのは当然だとして答えが
必ずあるとは限らないのは確かに不思議ではある...
なんたってこの世は科学などで解決できる時代になってきた。
なのに昔から未だに答えの出てない議題だってある。
ちなみに友人の読んでる小説の内容は『鶏卵のオリジン』
鶏が先か卵が先かというそれぞれの派閥が戦争を起こす物語。
...きっと結末はお互いが潰れるまで戦い続けるだろう。
語り部シルヴァ
『揺れる羽根』
随分と落ち着いてきた。
部屋はもう取り返しのつかないレベルだけど、
自分がしたことだ。仕方ない。
肩で息をするレベルで暴れてたみたいだ。
呼吸が荒い。というかどれだけの時間暴れてたんだろう。
それすらもわかってない。
とりあえずその場でへたりこんでゆっくりと
呼吸のペースを戻す。
雪のように積もった羽根は
そこに転がってる枕だったものの中身だろう。
あんな枕の中にこんなにも羽根が
詰まってたんだと冷静になって見ている。
また新しい枕を買わなきゃ。
些細な行動で周囲の羽根は揺れて舞う。
次はもっと丈夫な枕を買おうかな...
語り部シルヴァ
『秘密の箱』
オカルト研究部の僕らの部室には"あかずの箱"
と呼ばれる箱がある。
僕が入部した時から既に置かれていて先輩曰く
「部長が入部した時には既にあって、
先輩からも開けるなと釘を刺された」らしい。
実際人がいない時に興味本位で触ってみたが
開きそうになかった。
高い場所にあり椅子を使わないと届かない。
どこにでもありそうな缶のような箱。
取ってつけたような南京錠。開けるのは無理かもしれない。
だがこの前部長がその箱をいじっているのを見た。
部長は何か知っている...?
部長が帰ったあとにもう一度箱を調べてみた。
鍵がかかって...いなさそうだ。
恐る恐る開けようとすると部長の大きい声が部室内に響く。
「だめっ!!」
驚いた拍子に椅子から転げ落ちた。
なんとか怪我はなかったが、周りにお菓子が散らばっていた。
「...バレちゃったか。」
先輩は片手で顔を覆う。秘密の箱は甘い味で満たされていた。
語り部シルヴァ