『フィルター』
これはいらない。消そう。
これは欲しい。付け足そう。
そんな取捨選択を繰り返して
自分が納得いくまでスマホをいじる。
原型が無いかもしれない。
それでもこれが可愛いと私が思う。
完成したからネットにあげる。
私の投稿に通知を付けているであろう人から
いいねが5、6個来る。
立て続けに「今日も可愛い!」
と薄っぺらいコメントが添えられる。
それでも承認欲求というのは満たされていく。
もっといいねやコメントが欲しい。もっと褒められたい。
そう思う私はまた別のポーズで自撮りを始める。
そしてまた欲しいと要らないを繰り返して
理想の可愛いを目指す。
語り部シルヴァ
『仲間になれなくて』
水の入ったバケツを個室の天井に向かって投げる。
ビシャビシャと中の水がぶちまけられる音が聞こえる。
するとクラスの一軍女子たちの甲高い笑い声がトイレに響く。
私は頬を無理やりあげて笑う。
個室に行こうとすると
女子の一人に呼ばれて私はそれについて行く。
教室に戻って話を聞いていると
ガラガラと音を立てて教室のドアが開く。
大きな音で教室内の生徒はほぼ全員ドアに視線を向ける。
びしょ濡れの君が教室に入ってきた。
「ちょっとぉ〜、ドブネズミが入ってきた〜」
「やだ〜不潔。ははっ」
一軍女子はそれを見て笑い、連れの男子は野次を飛ばす。
他の人は色んな思いを秘めながら見て見ぬふりしかできない。
君は何も言わず濡れた体を
カバンから取り出したタオルで拭き始める。
その姿を見た一軍女子はまた笑い出す。
ごめんね。君の仲間になれなくて。
語り部シルヴァ
『雨と君』
強い雨風で部活が休みになった。
元々幽霊部員だからあまり関係無いけど...
家にはまだ帰りたくない。
きっとあいつが母さんと一緒にいる。
あいつがいる時に帰ると機嫌を悪くして
俺や母さんに当たってくる。
それだけは避けたい。母さんはなんであんなやつのことを...
天気がいいならゲーセンとかに寄って時間を潰せれるけど
今日は台風のような天気だ。よく学校は一日やったもんだ。
時間をどうやって潰そうかと学校内を歩き回っていると
教室で同じクラスメイトが一人で本を読んでいた。
物静かでどこか儚げなクラスメイト。
雨が降っている窓を背景に本を読む君は
なんだか見惚れてしまう。
話しかけようとしたけど
それを邪魔するわけにはいかなかった。
話しかけるならまた明日だ。
(気をつけて帰ってね。また明日。)
声をかけず心で唱えて手を振る。
さて、どこで時間を潰そうかな。
雨の中また廊下を歩き始める。
外の雨音が聞こえるのに自分の足音だけが廊下に響いた。
語り部シルヴァ
『誰もいない教室』
外は雨がどんどん激しくなっていく。
それなのにがらんとした教室はすごく静かだ。
大雨警報が出てもおかしくない天気だったが
学校はいつも通りだった。
ただ部活に関しては参加も帰るのも自由にしろと
先生は全部活に連絡を入れたそうだ。
今日は部活をしている人の方が少ないだろう。
私はすぐ帰れる距離だから教室で本を読んでいる。
いつも賑やかな教室だからこそ今日は本が進む。
窓が雨粒を弾く。パタタと音を立てるが静かだ。
きっと先生が見回りに来るまではこの時間は続くだろう。
誰もいない教室、静かで集中できる空間。
今はこの時間を楽しもう。
外は雨が降り続いている。
語り部シルヴァ
『信号』
深夜に散歩をしてみた。
この時期はまだ少し湿気があるが
夏に比べると随分と涼しくなった。
月夜の下の道はぼんやりとした明るさで眩しくもない。
気持ちのいい夜だ。
そう思いながら歩いているとピカピカと何かが光る。
よく見ると街灯の下で男女が騒ぎながら
夜景を撮っているようだ。
あまり写真には写りこみたくないなあと思いつつ
別ルートを歩こうとした。
すると女性がカメラのフラッシュを
明らかにこちらに向けて光らせている。それも連写だ。
おいおい...勘弁してくれ...
そう思って早足に去ろうとした。
しかし何かおかしい気がする。
どうせフラッシュを使うなら街灯を避けないだろうか。
写真に詳しい訳じゃないがどうにも引っかかった。
フラッシュも連写にしては不規則で
パターンがあるようにも見える。
3回短く光って1回長く光ってまた3回...
なにかマズイかもしれない。
そう思って警察に電話することにした。
後日警察から男女のトラブルが
もう少しで大事になるところだったと連絡が来た。
語り部シルヴァ